取調べ室2
「……“ヤタガラス”。」
その名を呟く。
「ああいう、不可解なものの専門家たちだ。」
芳賀の声は落ち着いていた。
「特に遊馬さんは、荒事――“狩り”の専門家だな。
だから、我々公安とも付き合いがある。
全員が全員、彼のように戦闘をするわけじゃない。」
「……“狩り”。」
非現実的な話に、鸚鵡返ししかできなかった。
だが、一つだけ疑問が浮かぶ。
「……なんで、そんなのがうちの学校に転校してきたんだ?」
(“アレ”を“狩る”のに、そんな必要はないはずだ。)
さっきの戦いと、あの日の夜が脳裏に浮かぶ。
(まさか、うちの学校にも……)
嫌な想像が頭を掠める。
押し黙る芳賀。
そして、目をまっすぐに見つめてくる。
「君だよ。」
一瞬、言葉の意味が分からない。
「……オレ?」
「月曜日の夜、君は遊馬さんの“狩り”を目撃した。
そして今日も現場に乱入した。
……結界を突破して。」
ケッカイ――意味の分からないその言葉。
「何なんだよ、ケッカイって。」
「あの一帯に張られていた、人払いの結界だ。
その名の通り、人は中に入ることはできない。」
「…入ることはできないって、入れるだろ。……入ったし。」
「人の認識に作用して、入れなくなるんだ。……普通ならね。」
芳賀の視線は探るようだった。
――――「……なんで、いる。」
あの夜の、遊馬の声が、脳裏に響く。
「そんなこと言われてもオレは普通に入っただけだ。
何もなかったし――」
芳賀は、数秒、観察するようにして、視線を外す。
「まぁ、俺には結界やら、超能力やらの超常現象はよく分からない。
……ただ、能力を自覚していない者もいるそうだ。
君がそうなのかもな。」
自分に身に覚えのない能力がある―――そんな馬鹿な。
「そういや、アンタだって倉庫に入ってきただろ。」
「俺は、遊馬さんに呼ばれたから。」
芳賀はしれっと答える。
「は? そんなんで入れるのかよ?」
「認識に作用するって言っただろ。
呼ばれたという事実の方が強いんだ
……ということらしい。」
「……“らしい”ね。」
この芳賀という男は、“そういう話”に関しては、自分と大差ない――
そう考えて良さそうに思えた。
「君の場合は、ただ鈍感なだけ…そんな気もするけどな。」
芳賀が、笑って立ち上がる。
「説明はこれくらいでいいだろ。
こちらとしては、黙っていてくれればそれで構わない。
……あとは、遊馬さんの邪魔をしないことだな。」
こちらも立ち上がる。
「ああ、でも――遊馬さんのほうは、君を監視し続けるかもしれない。
結界を突破した“異常者”だからな。」
「なんだよ、それ。」
眉間にしわが寄るのが分かる。
「あぁ一応、連絡先を交換しておこう。
何かあったら、連絡してくれ。
…何があるか分からないからね。」
閉口したまま、番号を交換し、
暗澹たる気持ちを抱えたまま、帰路についた。
***
空斗を見送ったあとの取調室。
一人残った芳賀は、手に取ったままの携帯を操作する。
「……終わりました。遊馬さん。
――本当に、何も知らないようです。
あれが演技だとは思えませんが。」
一拍置いて、苦笑を混ぜる。
「――あれが演技なら、大したものです。
役者として有望かもしれません。」
小さく息をついて、声を落とす。
「……監視は続けるのですか?
――はい。了解しました。では。」
通信が切れ、携帯を懐にしまう。
室内には、静けさだけが残った。




