取調べ室1
取調室。
あの後、遊馬はこちらに一瞥も寄こさず、バイクに乗って去っていった。
目の前の男――芳賀に、すべてを丸投げしたのだろう。
連れてこられたのは、所轄の警察書ではなかった。
警察関係の施設ではあるようだが、公安の施設なのだろうか。
無機質な蛍光灯の下、金属製の机を挟んで向かい合う。
「悪いな。こんなところで。」
芳賀は一息吐くと、椅子に腰掛ける。
そして、オレの目を見据て言う。
「まずは……今回のこと、黙っていてもらいたい。」
「……口封じか。」
睨み返すと、芳賀は小さく笑い、すぐに首を横に振った。
「いや、そんなレベルの話じゃない。」
表情をわずかに崩しながらも、すぐに真面目な眼差しに戻る。
「この件を広めてほしくはないが――君が話しても、信じる人はいないだろう。
君の信用が落ちるだけだ。
……だからこれは、お願いでもなく、忠告だ。」
確かに、その通りだ。
頭のおかしいやつと思われるだけだろう。
「……分かった。了解だ。
……そんなことより、いろいろ説明してくれるんだろ。」
芳賀は、少し困った顔になった。
「話してもいいが……薄々は君も感づいてるんじゃないか?」
遊馬が警察公認で“アレ”を殺したことか。
いや、それより――。
「“アレ”は何だったんだよ。普通じゃなかったぞ。」
芳賀の表情がわずかに曇る。
「そこなんだが……我々も、よく分かっていない。」
「は?」
「普通ではない。薬物のせい――なのだろう。
似たような事件でも、薬物は検出されたことはある。
だが、それとの因果関係が証明できないんだ。
そもそも、あのような症状を引き起こす薬物など確認されていない。」
薬が出たのに、分からない?
疑問が伝わったのか、芳賀は説明を続ける。
「研究所に送っても、何も出なくてね…
…全身麻酔の話を知ってるかい?」
急に話が飛んだ。
何の話だ。
「なぜ、全身麻酔がそのように作用するのか、科学的に解明されてはいない。
ただ、便利だから使っているにすぎない、という話さ。」
芳賀は静かに息を吐いた。
「科学は万能じゃない。
あれがオカルティックなものなのか、
科学的に説明できないだけなのか、
我々には判断がつかないんだ。
……我々の認識は、君の認識と大差ない。」
「あ? じゃあ、何だかよく分からないまま、殺人に加担してるのか、警察が?」
「“上”からの命令なんだ。……“彼ら”に協力しろ、とね。」
(“上”? 警察の上? 大臣? 政治家か……? いや、それより――)
「“彼ら”ってのは遊馬のことだよな。何なんだよ、アイツは?」
一瞬、言っていいものかと芳賀は逡巡を見せた。
そして、低く答える。
「“ヤタガラス”。……そう呼ばれている。」




