倉庫の交戦後1
「……殺したのか。」
聞くまでもない。
見ればわかる。
だが、口に出さずにはいられなかった。
「他に方法はない。」
遊馬は短刀の血を、取り出した半紙で拭っている。
その仕草には、躊躇いも後悔もない。
声もまた、乾いて平坦だった。
「…殺すことは、ないだろ。」
声は掠れていた。
怒鳴るつもりも、責めるつもりもない。
ただ――人が人を殺したという現実が、うまく飲み込めなかった。
遊馬は、わずかに顎をこちらに向けた。
だが視線は巨漢の亡骸に向いたままだ。
「殺さなければ、お前が殺されていた。」
淡々とした言葉が、鉄よりも冷たく響く。
血の匂いが鼻を刺し、床に広がる暗い液体がじわじわと靴底を濡らす。
その生々しさが、「死」というものを現実に押しつけてくる。
短く、硬い息が漏れた。
沈黙が落ちる。
倉庫の奥で、水が滴る音がした。
埃と鉄と血の匂いが混ざり、重く淀んでいる。
遊馬は携帯を取り出し、どこかに短く連絡を入れた。
その横顔は、淡々と仕事をこなした後のようだった。
あるのは、“終わった”という事務的な静けさだけ。
その様子を見ながら、言葉を探す。
心の底に沈んでいた疑問が、少しずつ形を持ちはじめる。
目の前の、異常に発達した筋肉と、黒ずんだ傷に包まれたから巨躯。
「結局……こいつ、何なんだよ。」
出た言葉は、独り言のようだった。
「全然、普通のサラリーマンじゃ、ねーじゃねぇか。」
遊馬は答えない。
ただ、携帯を懐に納め、遺体を見下ろしていた。
「というか……そもそもお前、何モンだよ。転校生。」
今度は、はっきりとした声で問いかける。
戦闘の緊張と恐怖が、ようやく言葉になって噴き出した気がした。
遊馬はその問いに、初めてわずかに表情を動かした。
だが、笑いでも怒りでもない。
ほんの一瞬だけ、目が細まる。
「それは、こちらのセリフだ。」
「……は?」
「なぜここにいる。どうやって入った?」
「あ? 入ったって……検問のことか? そりゃ騒ぎに乗じて――」
「そうじゃない。」
わずかに苛立ちを含んだ声だった。
遊馬の視線が、倉庫の入口へ向く。
つられてそちらを見る。
「何だよ、別に閉まってなかっただろ。」
「……そうじゃない。」
間を置き、遊馬は低く続けた。
「あの時もそうだ。何故、結界の中に入れた?」
「……ケッカイ?」
聞き慣れない言葉が、倉庫の静寂に響いた。




