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「私たちは客じゃないのよ。最近街で噂の占い師がここにいるでしょ? その人に会いに来たの。上にいる?」
老婆は少女の言葉に、はてと首を傾げる。上階へぼんやりとした視線をやると、合点がいったように小さく頷いた。皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして笑う。
「ああ。何やらネズミが悪さをするようでね。時折上の階で物音がするんですよ。でも、大丈夫。お嬢さんがたがお泊りになるお部屋には、ネズミは出ないようにしますからね。安心してお泊りくださいな」
老婆の言葉に、タニアは思わず眉をひそめた。どうも話が噛み合っていない。
しかし少女は老婆の回答に満足したらしい。「そう」とぞんざいに返事をして、さっさと階段へと向かう。
タニアは慌てて少女を追った。
「ちょ、ちょっと。勝手に入っちゃっていいわけ?」
タニアは、少女の背に声をかける。
少女は階段を上りながら、タニアを小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「いいのよ。ここはもう廃業しているんだから」
「え? だって、おばあさんが店番しているじゃない」
タニアは首をかしげる。
しかし少女は、タニアの言葉を一笑に付した。
「あの人は、ここのもと女将よ。宿屋を廃業したことを忘れているみたいで、時々ああして店番をしているらしいわ。よほどここに思い入れがあるのね」
少女はつまらなさそうにそう言いながら軽やかに階段を上っていく。
それとは対照的にタニアは渋い顔をした。
ここが廃業した宿屋だというなら、ここにいるという占い師は客ではないということだ。
こんな廃屋を根城にしている輩と、果たして関わってもいいのだろうか。
タニアは不安に思いながらも、少女の後を追って階段を上る。
二階も一階と同じように埃っぽかった。天井からぶら下がる蜘蛛の巣を避けながら、廊下を進む。
床は歩く度にミシミシと軋んだ音を立てていた。いつ床が抜けるかと、タニアは気が気ではない。
タニアの心配など全く気にしない少女は、一番奥の部屋の前に立つと、勢いよく扉をノックした。
しばらくすると扉が少し開き、中から中年の男が顔を出した。
「なんだ?」
「あなたが、最近評判の占い師ね。私、占いをして欲しいのだけど、今いいかしら?」
少女は不躾な物言いで男に話しかけると、部屋の中を覗き込む。
男はそんな少女の態度を警戒するように、じろりと睨んだ。
「占いは夜からだ。出直してこい」
男はそう言い放つと扉を閉めようとした。
しかし少女は扉の隙間に足を挟んでそれを阻止する。




