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「夜……って、もう夕刻よ。夜みたいなものでしょ。ちょっとくらいいいじゃない」
少女は、男に対して臆することなく不遜な態度で食い下がる。
男はそんな少女に苛立ちを隠そうともせず舌打ちをした。
しかし、少女の後ろで隠れるように身を潜めていたタニアに気がつくと、そのまま視線が固まった。
男がタニアに気を取られている隙に、少女は強引に扉を押し開ける。そして、あっさりと部屋の中へと侵入を果たした。
男はそんな少女を気にする余裕などないようで、タニアの顔に穴が開くのではないかと思うくらい、タニアを凝視していた。
居心地の悪さにタニアは思わず顔を背ける。タニアの不快そうな様子で、男はハッと我にかえったようだ。
慌てて扉を大きく開け、タニアを招き入れる。
先ほどまでの態度が嘘のように、へこへことした愛想笑いを顔に張り付けている。
(な、なに? どうして突然態度が変わったの?)
タニアは不安になる。
男の反応は明らかに先ほどまでと違う。
タニアは恐る恐る男の様子を窺うが、相変わらず男はニコニコと笑みを浮かべていた。
(なんなの? この人)
薄気味悪さを感じたタニアは、今すぐにもこの場から立ち去りたい衝動にかられた。
しかし、ちらりと視線をやった先にいた少女と目が合い、そうもいかなくなった。
いくら出会って間もない見ず知らずの娘だとはいえ、こんなに怪しい男の部屋に一人置き去りにするわけにはいかない。
タニアは男に気付かれないよう小さく深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
(ここは廃屋。窓がこわれかけていたから、いざとなったら、その窓を蹴破って逃げよう)
タニアはそう決意すると、部屋の中へ入った。
少女はというと、すでに部屋の奥まで入っていた。開け放した窓の窓枠に腰を掛け、外の様子を眺めている。
脱出経路が既に確保できていることに少し安堵したタニアは、室内を観察する余裕ができた。
部屋は思ったよりも広かった。しかし、その広さを台無しにするくらい雑然としている。
埃の積もった床には、旅の荷物のほかに本や書類が所狭しと置かれており足の踏み場もないほどだ。
中央には小さなテーブルと椅子が置かれている。テーブルの上にも本が山のように積まれていた。
部屋の隅には一人用のベッド。ベッドはくたびれたマットレスが剥き出しでシーツも枕もない。
(ヤバ……。絶対、 虫とかいそう)
不衛生な環境に顔を引きつらせているタニアをよそに、男はタニアを気遣うように椅子をすすめる。




