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タニアはそう言うと、少し切なげに笑った。
しかし次の瞬間には、いつもの軽妙な調子に戻っていた。
両手で頬をぱんっと叩く。
「よし。切り替えよ。ばぁちゃんに心配かけないように、ちゃんとやらなきゃね」
その言葉には、先ほどまでの不安が嘘のように、しっかりとした芯があった。
てきぱきと茶器を片付け始めたタニアを横目に、ジャックスとセリオは目を合わせる。
ジャックスはやれやれとばかりに頭をかいた。タニアに悟られないよう極限まで声をおさえてジャックスが唸る。
「……冒険者ねぇ。ノルダなんてやつ、俺は聞いたことねぇぞ。タニアが15歳だから、そのころには廃業したってことか? それにしたって、あんな婆さんなら、何か耳にしてそうなもんだが」
ジャックスのため息交じりの言葉に、セリオも小さく頷く。
「身分証に隠された印のことも知っていたようですし。……何より、あの威圧感。一体何者でしょうか?」
二人は同時にタニアを見つめた。
謎の老婆によって育てられた少女。タニアにもまた何か秘密がありそうな予感がした。
「俺は、しばらく城の方でノルダさんの素性を調べてみようと思います」
セリオがそう告げると、ジャックスも小さく頷いた。
「俺は、あいつの両親について探ってみる」
二人の密談に気がつかないタニアは、朝食の片付けを続けている。かすかに鼻歌が聞こえてきた。その横顔にもう憂いはない。
そんなタニアの様子をうかがいながらも、ジャックスの脳裏には、去り際のノルダの言葉が蘇っていた。
『何があってもこの子を放り出すんじゃないよ』
それはまるで、タニアが何か大きな秘密を抱え込んでいることを暗示しているかのようだった。
ジャックスは心の中で呟く。
(タニア。おまえは一体……)




