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「どこの馬の骨ともわからない輩が、突然家にいたのでは、ご心配なのもわかります。ですが、俺は本当にタニアの仕事仲間で怪しいものじゃないんです。ああ、もちろんあの人も怪しくないですよ。師匠、身分証を」
「お、おう」
セリオに促されて、ジャックスは懐から身分証を取り出す。
老女の顔色を伺いながらそれを差し出すと、ノルダはしぶしぶそれを受け取った。
「偽物なんかじゃありません。じっくり見てもらって大丈夫ですよ。さ、席へどうぞ」
セリオは話の流れを巧みに操り、ノルダの警戒心を緩めていく。どさくさに紛れてノルダを席へと座らせると、タニアにお茶の準備をするよう、こっそりと耳打ちした。
ノルダは渡されたカードとジャックスを渋い顔で見比べていたが、やがてその目が大きく見開かれた。
ジャックスの身分証には、しっかりとプレースメントセンターの職員であることが記されている。しかし、ノルダが目を留めたのは、そこではないようだった。
ノルダは身分証をサッとジャックスに返すと、タニアの様子を伺う。タニアはまだお湯を沸かしていて、しばらくは戻って来そうになかった。
ノルダはタニアには聞こえないように、声をひそめてジャックスに尋ねる。
「王家公認の一級冒険者ライセンス持ちなど、この街にはそうそういない。あんた、何者だい?」
ジャックスはただ静かにノルダを見つめ返す。
しばらくの間、ジャックスとノルダの間で無言の攻防が続いた。
やがてジャックスが静かな声で答えた。
「俺は、昔ちょっとばかし暴れ回っていただけの、しがない平民さ。今は、プレースメントセンターの所長をしている。それ以外、何者でもない。こいつの身元も俺と同じようなもんさ。俺が保証しよう」
ジャックスが目線だけでセリオのことを指し示すと、セリオは相変わらず人の良さような笑みのまま丁寧な会釈をした。その丁寧さが返って底知れなさを醸し出している。
そんな二人と対峙したノルダは、どこか遠い目をしながら深いため息を吐いた。
「面倒な輩と知り合っちまったもんだ。あの娘が嫌がっても、アタシの手伝いをさせておくんだった」
ノルダの呟きに、ジャックスは眉を顰める。そして、声を一層落とす。
「おい。婆さん。あんたこそ一体何者だ? 普通のやつは、あの印の意味なんて知らないはずだぜ」
ジャックスの言葉に、ノルダはフンと鼻を鳴らした。
「アタシャ、あの娘の面倒をちょっと見てやっただけの、ただの近所の婆婆ぁだよ」




