爽やか笑顔は、敵か味方か(1)
翌日、タニアは不安を抱えながら開店準備をしていた。ジャックスは各ギルドに捜索依頼を出してくれると言っていたが、今のところ行方不明者が見つかったという知らせはない。
(やっぱり、アタシも森に探しに行った方がいいんじゃ)
そう思ってはみても、昨日の森の様子を思い出すと足がすくむ。また森で迷うかもしれない。今度は戻って来られないかもしれない。そんな恐怖心がタニアの身体を縛り付けていた。
鬱屈とした気分を開店作業をすることで紛らわせる。お湯を沸かしたり、お菓子の袋詰めをしたりしながら、今日何度目かになるため息をつく。
そんなタニアの耳に「お邪魔しまーす」という快活な挨拶の声が届いた。慌てて顔を上げると、縁側から一人の青年が物珍しそうに室内の様子を窺っていた。タニアは急いで表情を取り繕う。
「ごめんなさい。まだ開店前なの」
そう声をかけると、青年はタニアに視線を向けてニッコリと笑った。
「ああ、そうだったの? 外に看板が出ていたから、もうやっているのかと思った。ここに来れば美味しいお茶が飲めるって聞いてきたんだけど……」
青年は屈託のない笑顔でそう言う。タニアはその笑顔に思わず見惚れてしまった。その顔立ちは爽やかな美青年という印象だ。
年の頃はタニアより少し上くらいだろうか。癖のある栗色の髪と、澄んだ青空色の瞳。人好きのする笑顔はどこか幼さを残しているが、その体躯は鍛え上げられており、服の上からでもしっかりと筋肉がついていることがわかる。
不躾な視線を送るタニアを不思議に思ったのか、青年は小さく首を傾げた。その仕草がどこか愛らしく見えて、タニアの頬が思わず熱を帯びる。
よく見ると青年は、大きな荷物を肩から下げていた。革製の鞘に収められた短剣も腰に携えており、パッと見た限り冒険者のように見受けられる。そんな青年にタニアは思わず声をかけていた。
「大きな荷物を持っているのに、待ってもらうのも悪いし……もう少しで開店するから、良かったら中で待つ?」
手招きしながらそう言うと、青年は弾けるような笑顔を見せた。
タニアは手近なテーブルに青年を案内すると、急いでカウンターの奥に戻りポットを手に取った。ポットにお湯を注ぎ入れ、一組のカップとソーサーを準備する。そして、カウンター下から1つのビンを取り出した。カウンター下には、乾燥させた香草が取り揃えてある。
それらをまとめてお盆に乗せると、タニアは青年のもとへ舞い戻った。




