甘い香りは、事件の香り?(9)
そっけない物言いにもジャックスは慣れているのか、嫌な顔1つする事なく用件を切り出した。
「どうやら、本格的にギルドを動かした方がいいかもしれん」
小さな魔法陣からはフンと鼻を鳴らしたような音が聞こえた。ジャックスは少し肩を竦めてから、事のあらましを魔法陣に向かって話す。
「傭兵ギルドも冒険者ギルドも、手一杯のようなんだ。そっちから動ける奴を寄こしてはくれんか?」
魔法陣からは盛大な溜め息が聞こえてきた。それから、小さく《わかった》と了承の意が聞こえてきた。
《それでどうだ? 受付はモノになりそうか?》
魔法陣を通してくぐもった声が問いかけてくる。ジャックスは腕組みをした。
「どうかな。見習い学校を出ていないから、作法はなっていない。報連相はそれなりといったところか。まぁ、頭の回転は悪くないな」
その言葉をどう受け取ったのか、魔法陣からはさらに面倒臭そうな声音が発せられた。
《まぁ、そちらはお前に任せる。いいように育ててくれ。……じゃあな》
興味なさげに言い捨てる通話相手に、ジャックスは慌てて声をかけた。
「ちょっと待てっ」
《……なんだ?》
声だけしかこちらには届かないというのに、まるで猛禽類のように鋭い視線がこちらに向けられているような感覚をジャックスは覚えた。
しかし、そんな相手を威嚇するような態度に臆することもなく、ジャックスは自身の要望を口にする。
「嬢ちゃんと商業ギルドを繋いでいる、注文書を送る魔道具があるだろう? あれと、この通信用の魔道具をギルドに置くことはできないか? あそこと、お前のところを繋げば、直接指令が出せるようになるだろ」
すると魔法陣からはまたしても面倒臭そうな溜め息が漏れる。それから再び声が発せられた。
《わかった。準備させる。だが、通信器はお前のところと繋げ。こちらに通話が来ては迷惑だ。転信器だけこちらと繋ぐ。2つの魔道具は後日、お前が工房へ取りに行け。……それじゃあな》
そっけないその言葉を最後に、魔法陣はその輝きを失い、弱々しく点滅を繰り返す。どうやら魔法陣の向こう側が通話を切ったようだ。
ジャックスは起動させていた魔石を魔道具から離すと、ぐったりと執務用の椅子にその身を沈めた。
(まさか、こうも早くギルドを動かすことになるとは……。まぁ、奴が使う精鋭部隊だ。何かしらの成果は得られるだろう)
ギルドを立ち上げてから、1ヶ月。タニアの知らないところで、着実にことは動き出していた。




