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クレーマー(魔物)、対応マニュアルに存在しない。

――午前6時03分。

Midnight Mart 王都支店。

店内は平和だった。

店長は相変わらず寝ている。

世界も、今のところ壊れていない。

ユウトはレジでぼんやり思う。

(……今日は

 平和回で終わってほしい……)

その願いは、

自動ドアの音とともに打ち砕かれた。

ガラッ。

現れたのは――

全身が黒い霧でできた、

身長2メートル越えの魔物。

赤い目。

鋭い牙。

禍々しいオーラ。

店内が凍りつく。

新人 「で、出ました……

 魔王軍……!?」

リゼリア 「……いえ。

 もっと厄介です」

アリシア王女 「まさか……」

魔物が、

低く唸るような声で言った。

「……おい」

ユウト 「はいっ!

 いらっしゃいませ!」

魔物 「……さっき買った

 からあげ棒……」

全員 (来た……)

魔物 「……思ったより

 熱くない」

ユウト 「クレーム内容それ!?」

魔物は腕を組む。

「我は炎を司る者……

 期待していた……」

新人 「基準がおかしい……!」

ユウトは即座にマニュアルを思い出す。

「えーと……

 恐れ入りますが

 加熱具合には個体差が……」

魔物 「……納得できぬ」

霧が濃くなる。

リゼリア 「ユウト殿……

 これは戦闘に……」

ユウト 「しません!!

 ここコンビニです!!」

そこへ――

「……あー……」

全員、振り返る。

レジ裏で目を開けた店長。

店長 「……うるさい……」

魔物 「……貴様……

 人の上司か……?」

店長 「……クレーム……?」

魔物 「そうだ……

 このからあげ棒……」

店長は一口、かじった。

「……普通」

魔物 「なっ……!」

店長 「……熱さは……

 自分の感情で

 変わる……」

全員 「何その名言!?」

店長は続ける。

「……嫌なら……

 レンジ……

 使えば……」

魔物、沈黙。

「……それは……

 利用しても……

 よいのか……?」

ユウト 「もちろんです!」

魔物は静かに頷いた。

「……文明……

 素晴らしい……」

チン。

温め直されたからあげ棒。

魔物は一口食べ、

満足そうに言った。

「……今度は……

 ちょうどいい……」

そして――

何事もなかったかのように去っていく。

自動ドアが閉まる。

新人 「……世界……

 救いました……?」

ユウト 「いや、

 クレーム処理しただけ」

店長は再び横になる。

「……対応……

 ありがとう……」

「お前が一番何者だよ!!」

蛍光灯が、

いつも通りに光る。

Midnight Mart 王都支店――

ここでは今日も、

魔王より先に

 お客様満足度が優先されていた。

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