新人、バックヤードで心が折れる。
――午前5時12分。
Midnight Mart 王都支店・バックヤード。
そこに立つ一人の少女がいた。
フード付きローブ。
緊張で強張った顔。
名札にはこう書かれている。
「研修中」
ユウトは優しく声をかけた。
「えーっと……
今日から入る新人さんだよね?」
少女は勢いよく頷いた。
「はいっ!
王立魔法学院・補助課程所属!
名を――」
「名は言わなくていいからね」
「え?」
「ここ、
名の王が出る職場だから」
「???」
奥からリゼリアが説明する。
「この店では
名を名乗る=イベント発生
と思ってください」
「こ、怖い……」
ユウトは咳払いをして言った。
「じゃあまずは簡単な作業から。
バックヤードで
品出しお願い」
「は、はいっ!」
――5分後。
「……あの……」
震える声。
バックヤードの棚の前で、
新人は立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
「この……
“おでん”という品……」
棚には並ぶ
大根・卵・こんにゃく。
「……全部、
魔力反応がありません……」
「うん」
「保存魔法も……
防腐結界も……」
「うん」
「……怖いんですが……」
「それ、
普通の食べ物だからね」
新人は混乱した。
「で、でも……
この“ツナマヨ”……」
ユウト、固まる。
「……触った?」
「は、はい……」
新人の手が、
うっすら光っている。
リゼリアが顔を覆った。
「……適性者……」
「え?」
突然、
バックヤードの奥から声。
「……あー……」
全員が振り返る。
そこには、
寝起きの店長。
「……ツナマヨ……
触れる人……
久しぶり……」
新人、悲鳴寸前。
「ひっ……!」
「大丈夫、
この人、
ほぼ寝てるだけだから」
店長は棚を一瞥し、言った。
「……ユウトくん……」
「はい!」
「この子……
“ツナマヨ教”に
勧誘される前に……
帰して……」
「そんな教団あるんですか!?」
新人は涙目で叫んだ。
「私……
ただ
バイトがしたかっただけなのに……!」
アリシア王女が肩に手を置く。
「安心せよ。
慣れれば、
何も考えなくなる」
「それ安心じゃないです!!」
その瞬間。
表から声。
「すみませーん!
からあげ棒、
どこですかー?」
ユウトは即答した。
「3番通路です!」
新人は呆然と呟く。
「……世界、
救ってませんよね……?」
ユウトは笑った。
「うん。
今日は救ってない」
店長はもう寝ている。
スゥ……。
蛍光灯が明滅する。
Midnight Mart 王都支店――
ここでは今日も、
世界より先に
新人の心が試されていた。




