店長、5分だけ世界を救う。
――午前4時37分。
Midnight Mart 王都支店は、
静かな危機に包まれていた。
原因は明白。
「……お釣り、足りません……」
レジ前で立ち尽くすユウト。
その前には、無言の客――
王国会計監査官が立っている。
「金貨一枚、足りぬ」
「え、えっと……
さっき確かに合ってて……」
アリシア王女が小声で囁く。
「まずいな……
会計監査官は
国家権力の塊だ……」
リゼリアも青ざめる。
「ここで不正を疑われれば……
最悪、営業停止……」
「コンビニに営業停止あるの!?」
そのとき。
スゥ……ガタン。
レジ裏で、
店長がゆっくりと起き上がった。
「……あー……
うるさい……」
全員が息を呑む。
「店長!?」
「……5分だけ……
頭、回るから……」
そう言って、
ふらふらとレジに立つ店長。
監査官が睨む。
「この釣銭、不一致だ」
店長は一瞬だけ
レジを見て、
床を見て、
ユウトを見る。
「……ああ」
そして一言。
「それ、
さっき落ちて
冷蔵庫の下に転がってる」
「え?」
ユウトが覗く。
――あった。
「な、なんでわかったんですか!?」
「……音……」
「音!?」
店長はそのまま
淡々と続ける。
「あと、
このレジ、
17円ズレやすいから
次から気をつけて」
監査官が目を細める。
「……貴様、何者だ」
店長は欠伸をしながら答えた。
「ただの……
寝不足……」
沈黙。
数秒後、
監査官は頷いた。
「……問題なし」
去っていく背中。
扉が閉まった瞬間、
全員が一斉に店長を見る。
「すごすぎません!?」
「今の、
名の王より
強かったです……」
「王国に欲しい……
いや本気で」
店長はもう椅子に戻りながら言った。
「……じゃ……
寝るから……」
「え、もう!?」
「5分……
終わり……」
――即、爆睡。
スゥ……。
ユウトは呆然と天井を見上げた。
「……この店、
最終兵器が
寝不足の中年なんですけど……」
蛍光灯が、
いつも通りに明滅する。
Midnight Mart 王都支店――
ここでは今日も、
世界の危機が
最低賃金で処理されていた。




