王女、レジに立つ。――そして国が滅びかける。
――午前4時02分。
Midnight Mart 王都支店は、
かつてない人手不足に陥っていた。
原因はひとつ。
店長が、
まだ起きない。
スゥ……スゥ……。
「……本当に起きませんね」
「“本当に”じゃないです!!
これ、営業事故です!!」
ユウトは頭を抱える。
「このまま朝になったら
誰がレジやるんですか!!」
そのとき、
静かに一歩前へ出る人物がいた。
アリシア王女である。
「――私がやろう」
「やめてください」
即答だった。
「国が滅びます」
「なぜだ!?」
「王女様が
深夜コンビニで
レジ打ちしてる時点で
世界観が壊れます!!」
しかし王女は引かない。
「国を守るためだ。
この程度の務め、問題ない」
「問題しかないです!!」
リゼリアが頷く。
「……王女様は
剣よりも
“マニュアル”が苦手かと……」
「失礼だな!?
一応、読める!」
ユウトは震える手で
レジ操作マニュアルを差し出した。
「じゃ、じゃあ……
ここ押して、
次に商品スキャンして……」
「ふむ……」
ピッ。
王女がバーコードを読む。
《ピロン♪》
「おお……
これは……
魔道具か?」
「ただのレジです!!」
次の客(兵士)が
おにぎりを差し出す。
「ツナマヨで」
「了解した」
王女は真剣な顔で
ボタンを押す。
ピッ。
《エラー:年齢確認が必要です》
「……年齢確認?」
王女は剣に手をかけた。
「名を名乗れ」
「やめてください!!
それ違う確認です!!」
「では何をすればいい?」
「画面をタッチするだけです!!
命は賭けなくていいです!!」
王女、慎重に画面を押す。
ピッ。
「通った……
民よ、そなたは成人だ」
「いや、
そういう宣言いらないです!!」
そのとき。
レジ裏から
店長の寝言が聞こえた。
「……袋……
いりますか……」
全員、固まる。
「起きた!?」
「いや、寝言です!!」
王女は客に袋を差し出し、
堂々と言った。
「袋は有料だ。
国も同じだ」
「深いようで意味がわからないです!!」
客が去ったあと、
王女は小さく息を吐いた。
「……なるほど。
これは戦場だな」
「そうです!!
ミスったら炎上します!!」
リゼリアがぽつり。
「……王女様、
接客スキルだけは
異常に高いです……」
ユウトは天井を見上げた。
「……もう何でもありだ……」
蛍光灯が、
いつも通りに明滅する。
Midnight Mart 王都支店――
この店では今日も、
国の威厳とポイントカードが
同じ重さで扱われていた。




