名の王より怖い存在が来た。――寝不足の店長である。
名の王が消え、
謎の人物も裏口の向こうへ姿を消したあと。
Midnight Mart 王都支店には、
何事もなかったかのように
蛍光灯の「ジー……」という音だけが残っていた。
ユウトはレジカウンターに突っ伏す。
「……あの……
今日って……もう帰っていいですか……?」
リゼリアは静かに頷いた。
「当然です。命を懸けた勤務でしたから」
アリシア王女も剣を納め、神妙な顔で言う。
「今日の働き、王国史に刻まれよう」
「やめてください!!
“深夜コンビニで名を守った男”とかで残るの嫌です!!」
――そのとき。
ガラッ。
表の自動ドアが、いつも通りに開いた。
全員が一斉に身構える。
「来たか……次なる脅威……!」
現れたのは――
目の下に濃いクマ。
よれたシャツ。
片手に缶コーヒー。
**Midnight Mart 王都支店・店長(現世側)**だった。
「……あー……
ユウトくん……」
「て、店長!?
なんでこの時間に!?」
店長はあくびを噛み殺しながら言う。
「いやぁ……
本店のシステムがバグってさ……
徹夜……三日目……」
その瞬間。
リゼリアの顔が凍りついた。
「……三日、眠っていない……?」
「な……なんという呪い……!」
「名の王以上の異常存在……!」
「いやただの寝不足です!!」
店長は店内を見回した。
床のひび割れ。
焦げたタイル。
倒れた陳列棚。
「……ユウトくん」
「はいっ!!」
「……また
“やった”? 」
「やってません!!
今日は世界が勝手に壊れました!!」
「そっか……
じゃあ、あとで報告書よろしく……」
「この状況をどう文章にしろと!?」
店長はふらふらとレジ横に座り込む。
「……ツナマヨ……
ツナマヨの在庫……」
アリシア王女が反応した。
「ツナマヨ……
あの聖なる具……?」
「……あ?」
一瞬、空気が凍る。
「ユウト殿……
この者、ただ者ではありません……」
「名の王は“名”を奪うが……
この男は“理性”を奪っておる……」
店長は缶コーヒーを一口飲み、ぼそっと言った。
「……王女様とか魔法使いとか……
今日もいるんだ……
まあ、いいや……」
「よくない!!」
そのまま、
レジ裏の簡易椅子に座ったかと思うと――
スゥ……スゥ……。
即・爆睡。
「受け入れるの早すぎません!?」
「……異界を超える器……」
「王国に欲しい……
いや、やめておこう……」
ユウトは天井を見上げ、深くため息をついた。
「……名の王より怖いの、
うちの店長かもしれない……」
蛍光灯が、いつも通りに明滅する。
Midnight Mart 王都支店――
今日も、
世界の命運と売上が静かに並行していた。




