29 迷子になったピエロ
「せーのっ、ワンツー! たくみん、もっと元気に〜♪」
私はポンポンを振りながら、翔太お兄さんとたくみんと一緒に踊っていた。お客さんたちも楽しそうで、まるで夢の国みたいな雰囲気だった。
——その時までは。
「ちょっと! あんたたち、浮かれてんじゃないわよ!」
ビシッとした音とともに、空気が一変した。店内の温度が一気に10度くらい下がった気がする。
「……ん?」
私は、ポンポンを振る手を止めずに、そっと後ろを振り返った。
佐々木さんが、ゴスロリ衣装をバサリと揺らしながら、メモ帳を片手に仁王立ちしていた。目の中に「必殺」の二文字が浮かんでいるような気がする……。
「さ、佐々木さん……」
「何よ、まるで学芸会で先生に見つかった子みたいな顔して」
ひっ……目が、完全に笑ってない……!
私はとっさにポンポンを背中に隠したが、モフモフがはみ出して全然隠せていない。ヤバい、このままだと間違いなく“お仕置き”される!
ど、どうしよう……!
そっと体を低くして、壁沿いにスッと後退を始めた。誰にも気づかれないように、息を潜めてカウンターの陰に身を潜める。
私は背を丸めて、ネコのように静かにお店の裏口へと消えた。
パタン、とドアが閉まる音が、自分だけ助かってしまったような罪悪感を強める。
「……たくみん、大丈夫かな……」
お店の裏のベンチに座り、うつむいた。ポンポンを握った手がじんわりと汗で湿っていた。
店内からは、まだ声が聞こえてくる。
「いっ……痛い! え、これメモ帳!? 角、凶器みたいなんですけど!」
ひ、ひどい……たくみん、やられてる……!
「まだ口が動くのね。なら、これで黙らせてあげるわ」
バシッ! ドスッ!
うわっ、音が生々しい!
私はポンポンをギュッと握りしめ、思わず耳を塞いだ。でも、聞こえてくる。
「……もしかして、こはるん、逃げた?」
バ、バレてる!?
「バカね、あの子は“無邪気”を装った“知能犯”て訳。あんたたちだけが“ピエロ”になってるじゃない」
——ズキン。
胸が痛んだ。私は無邪気を装ってなんかない。ただ、楽しく踊っていただけなのに……。
「……私、そんなんじゃないのに……」
私、ただみんなが笑ってくれたらいいなって……
でも、気づけば自分だけ逃げて、たくみんや翔太お兄さんは“お仕置きメモ帳”を受けている。
「うぅ……ごめんね、たくみん……」
ポンポンを抱きしめて、私は小さく震えた。
「たくみん、怒られてる……どうしよう……」
私の頭の中では、たくみんが白目を剥いてメモ帳にペシペシ叩かれている映像がぐるぐると回っていた。
「私、ちゃんと謝らないと……でも、戻ったら今度は私が“ピエロ”に……」
怖くて、でも申し訳なくて、どうしたらいいかわからない。私は、ポンポンに顔を埋めて、涙目のままお店の裏でうつむいていた。
——まるで、迷子になったピエロみたいに。




