24 新メンバー?
イベント準備が整い、カフェ・オブ・レストは一見「普通のインスタ映えカフェ」として、きらびやかな姿を見せていた。
もちろんその裏には、佐々木さんによる“経費の恐怖”が潜んでいるわけだが…。
「ふん、今日は黒字を狙うわよ、あとはホールスタッフがちゃんと接客するだけね」
佐々木さんはメモ帳を閉じ、鋭い目で店内を見渡している。
「俺、ホール大丈夫ですかね…?」
「当たり前よ。経費の中で接客してもらうわよ」
「え、接客に経費って…」
「ほら、動きなさい。経費の無駄よ」
「人件費のプレッシャーやばい!」
そんな中、カランとドアベルが鳴った。
店内にふんわりとした春の風が吹き込む。
「こんにちは〜♪」
その声に振り向くと、ふわっとした笑顔の女性が立っていた。
柔らかな髪に、優しげな雰囲気。でもその奥には小悪魔的な光が見え隠れしている。
「おお、白鳥さんだ〜!」
こはるんがポンポンを持ったまま、ニコニコと駆け寄る。
「久しぶり、こはるん。今日はよろしくね」
白鳥さんは手を振りながら、自然にカウンターに入る。
「え、白鳥さん? 誰ですか?」
初対面の彼女に、俺は戸惑いながら問いかけた。
「ふふ、拓海くんだね? うん、思った通りだなぁ」
「俺の噂でも聞いたんですか…?」
「うん、“空気感が絶妙”って」
「それ、褒めてます? 俺、エアコンの風みたいな存在感じゃないですか」
白鳥さんはくすくすと笑い、俺に近づいてくる。
妙に距離が近い。目を逸らせない。
「でも、ちゃんとここにいるよね? ほら、見えてるよ」
「いや、見えないこと前提みたいな言い方やめてください!」
「でも、拓海くんって、写真に撮ったら“探せ!”って感じかも」
「俺、ウォー◯ーじゃないですから! 背景に溶け込む才能ないですよ!」
「ふふ、でもせっかくだから、みんなで写真撮らない?」
白鳥さんはスマホを取り出し、さりげなく俺、こはるん、佐々木さんを巻き込んでポーズを決める。
自然すぎて、俺は断る間もなかった。
「はい、みんな、いくよ〜♪」
カシャッ!
「撮れた〜! ほら、見て見て」
画面には、白鳥さんの眩しい笑顔と、こはるんの無邪気なピース、佐々木さんの鋭い目線、そして…俺の存在感の薄い影。
「……俺、これ、います?」
「ほら、ちゃんと“そこにいる感”出てるよ」
「いや、“いる感”じゃなくて、“いる”って言ってくださいよ!」
「うーん、でもたくみん、やっぱり目立たないね〜」
こはるんはスマホを覗き込み、首をかしげている。
「ほんとね。“どこにいるでしょう?”ってクイズに使えそうだわ」
佐々木さんも腕を組んで、うなずいている。
「クイズにしないでください! 俺、リアル間違い探しじゃないです!」
「ふふ、じゃあ“#探せたら幸運”ってタグつけようか?」
「でも、バズるかもしれないわね。“見えない店員、カフェで発見”とかで」
佐々木さんが計算機をポチポチ押しながら、真顔で言ってくる。
「俺、経費内で済む心霊現象じゃないですよ!」
「でも、たくみんって“影の支配者”みたいでかっこいいよね!」
こはるんは無邪気な笑顔を向ける。
「影の支配者って、完全に闇に飲まれてるやつじゃん!」
そのとき店長がのんびりした声で現れた。
「おはよう、白鳥さん」
胸には相変わらず赤いタスキがかかっていて、「夢は無料、経費は現実」と手書きで書かれている。
「おはようございます、店長」
白鳥さんは無表情のまま、静かにお辞儀をした。
「店長、そのタスキ、やっぱり変ですよ〜」
こはるんがニコニコしながら、店長のタスキを指差した。
「え〜、変かな? 佐々木さんの手作りだよ〜。エコでしょ?」
「うーん、エコっていうか、ただの節約に見えます!」
「ふふっ、でも夢は見るだけならタダだからね〜」
「そうですね、夢を見るのは自由です。でも、目を覚ますのも大事です」
白鳥さんが、唐突に真顔で言った。
店長は一瞬ポカンとした顔になり、そのままスーッとカウンターに消えていった。
「え、店長、なんでそんなスムーズに消えるんですか? 俺より存在感薄いじゃないですか!」
「ふん、白鳥。アンタもなかなかやるじゃない」
佐々木さんがメモ帳を閉じ、じっと白鳥さんを見つめた。
「ありがとうございます、佐々木さん。でも、まだまだこれからですよ」
「さすが私が見込んだだけあるわ。アンタなら経費内で最大限の“映え”を引き出せそうね」
「ええ。でも、もっと面白いこともできますよ」
白鳥さんは余裕の笑みを浮かべ、ふと俺に視線を向けた。
「ね、拓海くん?」
「え、俺ですか? 何も知らないんですけど!」
「ふふ、拓海くんって、言葉より反応が面白いんだね」
「え、面白がられてる!? 俺、リアクション芸人じゃないんですけど…」
「でも、みんな見てると楽しそうだよ。ほら、こはるんも」
「たくみん、なんだかんだで白鳥さんに“いいね”されてる感じだよ〜♪」
こはるんが、ニコニコと楽しげに手を振っている。
「いや、俺、まだ何もしてないから! そもそも、俺に“いいね”つけられる要素ないし!」
「ううん、ちゃんと“いいかも?”って思わせる雰囲気あるよ。ね、佐々木さんもそう思わない?」
「……まあ、経費内の範囲でなら、アンタの存在も許可するわよ」
「俺、存在することに許可いるんですか!?」
こうして、白鳥さんの登場により、俺の存在感はますます薄れつつ、店内の“映え”はなぜか急上昇していくのだった。




