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22 夢は無料

 午後1時、俺は「カフェ・オブ・レスト」に到着した。 商店街No.1カフェ決定戦まで、あと2時間。今日は「インスタ映えスイーツフェア」だ。 普通のカフェっぽく営業する予定だけど、この店に“普通”を求めるのは、猫にシャケを守らせるようなもんだ。


「おはようございまーす!」


 店内に入ると、いつものほんわかムードは消え、やけにピリついていた。


「来たわね、拓海くん。さっさと準備しなさい」


 佐々木さんがメモ帳を片手に、ピシッと指をさした。 今日はハチマキを巻いて、腕まくりまでしているから、妙な迫力がある。


「お、おはようございます。なんか今日はいつもと雰囲気が違いますね」


「当然よ。今日は大事なイベントなんだから、気を引き締めなさい。さもないと、アイアンメイデンに入れるわよ」


 その物騒すぎる発言に、俺は本能的に 3歩後退 した。


「アイアンメイデンって、あの拷問器具のことですか!? 冗談ですよね?」


「冗談に聞こえる? ふふ、どうかしらね」


 佐々木さんが バインダーをバチンと叩きつける。

 怖い。めちゃくちゃ怖い。


「いい? ゴミみたいな働き方したら、血を抜いて“真っ赤なストロベリーモカ”にするわよ。」


「いや、言い方!?」


「なによ、かわいい名前じゃない」


 佐々木さんが バインダーを指でトントンと鳴らしながら、冷たい笑みを浮かべる。


「可愛くねぇよ!! 何でバイト来ただけで献血の意思確認されてんの!? 俺の血で新メニュー開発すんな!!」


「でも、深みのあるコクが出そうじゃない?」


「いや、“俺の血”にそんなポテンシャル求めるな!!」


「まったく、文句が多いわね。いい? 今日は戦場 なのよ、戦場!」


「いや、カフェイベントですよね!? なんで戦の覚悟決めさせられてんの俺!?」


「たくみんたくみん!」


 背後から 小走り でこはるんがやってきた。

 ニコニコしながら 俺の前でピタッと止まる。


「今日はね、ホールのお仕事いっぱい頑張るよ!」


「……そ、そうか」


「えへへ〜! まずは “笑顔の魔法” でお客さんをもてなすんだよね♪」


 こはるんが キラッキラの笑顔 で拳を握って言った。


「なんかホールスタッフとしての心構えが ディ◯ニーのキャストみたい だけど、まあ正しいな」


「それにね、たくみん、今日は特別だよ!」


 こはるんはニコニコしながら、ポケットから何かを取り出した。それは…ピンク色のグリッターが詰まった小さなボトル。


「これ、佐々木さんから渡されたんだ。『インスタ映えスイーツフェア』用の“キラキラパウダー”だって!」


「おい、それ本当に大丈夫なやつか? 目に入ったら人生がキラキラしちゃうんじゃ…」


「平気平気! 佐々木さんが『合法よ』って言ってたし!」


 こはるんはすでにテーブルにパウダーを振りかけ始めていた。まるで雪のように舞うキラキラ。隣のテーブルの水すら、輝いて見える。


「ほら、これで一気に“映え”るでしょ?」


「うん、たしかに…だけど、掃除が大変そうだな」


 そんな俺の心配をよそに、こはるんはポンポンを振りながら「キラキラ〜♪」と踊り始めた。ここ、カフェだよな?


「おお、拓海くん、いい感じだね〜」


 店長が現れた。なぜか胸に赤いタスキをかけている。「夢は無料、経費は現実」と書かれているあたり、佐々木さんの影響を受けているようだ。


「店長、それ、誰が作ったんですか?」


「もちろん、佐々木さんだよ〜。『イベントの資金繰りが危ないから、手作りで』ってね」


「そんな現実的な理由で、タスキができたんですね…」


 タスキは、マジックで書かれた手作り感満載の仕上がりだ。しかも、タスキの端っこに「値段交渉可」と小さく書いてある。売る気なのか?

 夢が無料だとしても、ここまで現実的に攻める必要はあったのだろうか。


「でも、今日はすごいよ! 百瀬さんも新作スイーツをいっぱい用意してくれてね〜。あと、佐々木さんが連れてきた新しい助っ人もいるんだ」


「え、新しい助っ人?」


「うん、今日はバリスタさんが来てくれたんだよ〜。佐々木さんが『人件費を抑えるため、ブラック労働に耐えられる人』って条件で連れてきたみたい」


「ちょっと待ってください、ブラック労働って言いました!? その人、無事ですか!?」


「大丈夫だよ〜。『眠らないためにコーヒー豆を直接食べてる』って言ってたし、やる気満々だよ」


「いや、それってやる気というより、覚醒状態じゃないですか!?」


 店長は「頼もしいよね〜」と呑気に笑っているが、俺の不安は増すばかりだ。助っ人というより、むしろ新たな火種が投入されたのではないだろうか。

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