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そうして彼は、世界を滅ぼす  作者: 大滝小山
一章 異界の鋼
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第四節 世界地図と講義

「じゃ、先ずは必要なことから教えていこっか」


 彼女は全く唐突にそう言った。登録が済んで帰ってきたばかりだが、外はすでに日が落ちている。


「最低限の常識と魔物から身を守る術が有れば、とりあえず生きることはできるからね」


 とは言え、戦闘面ではミーシアが教えられるのはそう多くないという。


「なにぶん、ボクの我流剣術だからハガネには合わないかもしれない。ということでアレンジなんかは積極的に取り入れてね」

「最初からそんなのでいいのか!?」


 あんまりな言い草に不安が募る。とはいえ実際戦いに無縁だった身では、効果的な鍛え方もわからない。


(まぁ、ミーシアらしいか)


 結局は彼女に従うことにした鋼。出会ってせいぜい半日だが、その強烈な個性はそんな事は関係ないと思わせるほどだ。要するにフランク過ぎると言うことだが。


「ハガネはこの世界について何も知らないから、まずは最低限の知識をつけるところからだね。国名は追々覚えていけばいいとしても、大陸の名前と位置に特徴ぐらいは知らないと不審に思われるしね」


 部屋の隅に置いてあった背嚢から丸めた羊皮紙を取り出しながら告げるミーシア。テーブルではなくベッドに取り出した羊皮紙の一枚を広げる。


「これがこの世界の、陸地にある大陸さ。方角はわかる?……うん、じゃあ説明するね。全体からみて北西、三日月型の大陸がラストゥアール大陸。花や香木といったものが有名でね、ボクに限らず多くの女性のあこがれの土地だよ」


 貴婦人の嗜みってね、と続けるミーシア。化粧品や香水などが名産品だという。


「そこから南に有るのがエンヴィーサ大陸。魔物が少ない上、変わった文化が有るんだ。たしか、ボクが行ったときのトレンドは『あにめーしょん』とか『メイドかふぇ』だっけ?」

「いきなりすごいのきた!?」


 イメージがいつか行ったことがある秋葉原で固定される。


「北西はラースバルト大陸。唯一、国らしい国が無い大陸で、世界一の危険地帯だ。

 そして南東、やや中央よりの大陸がボクらがいるグラトニール大陸。互助会ギルドの道中でも言ったけど、肥沃で四季が有る、穏やかな気候で世界の食糧庫って言われるぐらい食べ物が有るんだ」


 鋼は改めてここが異世界であることを理解する。

 大陸ごとの特徴が極端過ぎるのだ。


「次に浮遊三大陸の説明だ」

「空に浮かんでる、ということですよね?なぜ浮いているのかわからないんですか?」


 悪いとは思いつつ、質問を挟む。


「まだ一般にはわかっていない、ということになっているね。まあ大概の情報は貴族やら何やらが独占してるから詳しいことはわからないね」


 新たな地図を取り出しながら、ミーシアは答えた。

 情報は上が握っているが、庶民は薄々気づいている、といったところだろうか。危うい社会構造だ。


 一枚目よりも小さな地図を、四大陸が描かれた地図の上に合わせる。二枚目の四隅を一枚目の印のある所に重ねると、浮遊大陸を合わせた世界地図になる。


「浮遊大陸地図自体は地上の大陸を描いてないけど、こうすればだいたいの位置をつかむことが出来るんだ」


 地図上ではちょうど三角形の頂点の一つが南にある、いわゆる逆三角形のような位置にそれぞれの浮遊大陸が配置されている。


「南がスロウスザート浮遊大陸。乗り物がたくさん開発された、物作りで有名な大陸だよ。

 東にエルグリード浮遊大陸。多くの遺跡が残っていて、探求者エクスプローラ達が夢を追い求めてやってくるんだ。

 で、最後にプライドヴェルド浮遊大陸。西にある浮遊大陸で、宝石類や貴金属の産出量が高くて、装身具アクセサリーへ加工されるんだ」


 その他、幾つかある小さな島々には人は住んでおらず、資源などの旨みもないので放置されているという。


「とりあえずここまでで質問は?」


 ミーシアの問いかけに特にないと答えようとして、くぅ、と。


「ああ、もうそんな時間か。待ってて、晩ご飯貰ってくるから」


 彼女は苦笑しながら、武器に手を触れないようにと注意してから部屋を後にした。

 彼女の眼差しは、扉が閉まるそのときまで、微笑ましいものをみるかのようだった。


「――うがぁ……」


 後には、余りの間の悪さに悶える鋼が残されることになった。




 *





 現代のそれとさほど変わりのない白パンとスープ、更に保存用に塩漬けされた肉を引っ張り出してようやく落ち着いた腹をさすりながら、ミーシアの講義を聞く。内容は街にいる上で守らなければいけないマナーだが、日本にいれば鋼も意識しているようなことばかりであり、すんなりと受け入れることができた。

 少し戸惑ったのはこの世界のインフラである。魔道具という魔力を通すだけで、決められた魔法が使える道具のおかげで、清潔な飲み水が確保できるなど、時代の水準に比べて進んでいるのだ。


「数年前、魔道具の税率が見直されて以来、飲み水の魔道具は一家に一つぐらいまで普及してね、旅に便利だからボクも一つ持ってるんだ」


 確かに、いつでも清潔な水が使えるのは大きな強みだろう。

 他にも、武器に魔道具としての能力を持たせた強力な武器も存在するという。素材や効果を吟味するため手間暇がかかる武器は、非常に高価である上、税率が高く、持っているだけでも相当な実力者とみられるのだ。


「例えば、燃え盛る大剣とか、雷を呼ぶ槍とか、ほんと色々有るんだよ」


 魔力はこの世界の人間なら例外なく皆が持っていると言う。構文魔法ルーン・コンストラクションも、知識さえあれば誰でも使えるのだ。


「ただ、魔法が無くても、魔物と対抗する手段は有るんだ。もっとも、今日は遅いから明日から教えることになるけどね」


 窓から見える景色はとっくに夜の帳が落ち、酒場や歓楽街を除いて明かりが落ちた街並みは、暗闇という根源的な恐怖を呼び起こす。


「明かりをつける魔道具は無いんですね」

「油がもったいないから、ランプはあまり長くつけないんだよ」


 部屋の照明を落としながら語るミーシア。ベッドテーブルに置かれた一台を除いて全てのランプの灯を消してベッドに潜り込むと、義息子をまねく義母。


「じゃ、明日のためにも今日は寝よう!」

「なら、今日はソファに……」


 鋼の身体に素早く小さな腕が巻き付く。


「せっかくだし、添い寝――」

「しませんよ!」

「敬語復活!?」


 講義が終わったにもかかわらず、他人行儀なのが傷ついたらしい。動揺したすきに抜け出そうとするが、そこは人生経験の差か、我に返ったミーシアにすぐさま腕の力を強められて引き倒される。


「まあまあ、そんな嫌がらずに」

「このまま一緒に寝たら、すごく犯罪くさいじゃないか!?」

「ボク21歳、ハガネは16歳。ほら、犯罪じゃないよ?」

「見た目が12、3歳!!」

「言ったな、見た目女の子!!」


 言うほど女顔じゃない!と続く不毛な言い争い。

 結局、根負けした鋼が添い寝を了承し、仲良くベッドで眠る事となる。


「ほんと勘弁してよ……今日だけだから、こんな事」

「分かった、分かった。――それにしても暖かいね、一人とは大違いだ」

「――」


 そう言われれば、今夜以降も添い寝してもいい――


「うん、いい感じに抱き枕になってくれてるや。むふふ……」

「……」


 ――とは、思えなかった。




 *




 夕べとあまり変わらない朝食の後、鋼は義母が書いたメモを片手に街を彷徨いていた。

 彼女の指令は『メモに描いた街の地図を参考に次に書かれた物資と適当な武器を見繕ってきてね。お金はぎりぎりだから注意』である。ミーシアは背嚢を背負って互助会に向かったので、一仕事してくるのだろう。

 メモの通りなら、そろそろ鍛冶屋が見えるはずだ。


「おや?君一人かい?よかったらオレらと遊ばない?」

「おばさん、その果物見せて!」


 チッ、と舌打ちと共に去っていくチャラ男三人組。経験上、自然な形で誰かを呼べば、ああいう輩は大概諦めるのだが、異世界でも適用されるらしい。因みに、しつこいようならなりふり構わず叫び声を上げるつもりであった。


「すみません、お店にお邪魔して」

「いえいえ、どうせなら何か買ってくれればいいんだけどね」

「ははは……今ぎりぎりしかお金持ってなくて、必要なもの買ったら無くなっちゃうんですよ」


 そうかい、まぁサービスよ、とリンゴのような果物を渡される。


「いただきます。……サービスついでに、この辺に鍛冶屋ありませんか?」

「それならこの先の通りを二つ超えた先を右だよ」

「―――」


 メモを見る。


「どうしたね?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


 青果店の女主人に礼を言い、教えられたとおりに歩く。

 途中でかじったリンゴのような果物の味は、やはりリンゴの味だった。




 *




「や、お帰り。随分遅かったじゃないか」


 空に浮かぶ四つの太陽が燦々と輝いていたのも今は昔、蒼穹は藍色に染まり、煌めく星々と地球のそれより少し大きく見える月が空を支配している。


 昼食に液状羽鳥リキッドウィングの串焼きを食べただけで、結局半日も街をさまよい歩いた事になる。


「地図」

「うん?」

「街の地図、すごくいい加減で通り一つ以上は絶対間違ってたんだけど」

「参考に、としか言わなかったけどなぁ」


 理由は二つ、単純に道に迷ったこと。そして――


「ぎりぎりって、ぎりぎり足りないって意味!?」

「そこはほら、うまいこと値引きしてもらってさ」


 ――わずかにお金が足りなかったこと。

 発覚したときは鋼もかなり焦ってしまい、全ての店に出向いて価格を確認した。だが、二度、三度と確認しても計算はぴったり。


「でもまあ、ボクのメモの順番通りに買い物すれば、買えなかったのはせいぜい食器ぐらいでしょう?」


 義母はお見通しであった。


「昼過ぎには買い終わって、それから剣術を教えるんじゃなかったの?」

「それは大丈夫、たぶんそんなことだろうと思って最初から教えるのは明日にするつもりだったから」

「今日の苦労の意味は!?」

「あ、荷物ちょっと頂戴」


 大量の荷物を背負い、あるいは両腕で抱え、歩くだけでも一苦労なのだ。鋼としても、その申し出は有り難かった。


 なお、部屋でミーシアに全身を解してもらい、そのまま添い寝に突入したことを蛇足としてここに記す。

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