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そうして彼は、世界を滅ぼす  作者: 大滝小山
一章 異界の鋼
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第三節 登録騒動

 建物に入った瞬間、内部の喧騒が止み、しかしすぐに騒がしさが戻ってくる。

 だが、一部はミーシアや鋼に目を向けたままの者もいる。その様子は様々で、彼女の見た目に面食らう者、あるいは珍しそうにする者、鋼を探るように観察する者。鋼が気づいただけでもこれだけいるが、気づかれないように観察している者もいるかもしれない。


「ミーシア様、本日はどのようなご用件でしょう?」


 互助会(ギルド)の職員と思われる男性が声をかける。声音からあまり歓迎されてはいないようだ。


「まだ報酬を受け取ってなかったからね。それと、」


 鋼の肩を掴――もうとして格好が付かない事に気づいたらしい。苦笑しながら背中を押し出し、


「この子の狩人(ハンター)登録と共にボクがハガネの後見人するからその手続きをしようとしてね」


 周囲に聞こえるように宣言した。

 それを聞いた周りの反応は分かれる。年若い――ミーシアに至っては子供にしか見えない――二人の関係を怪しむ者。彼女の実力を知る者は鋼に期待を寄せる。そして目の前の職員はあくまで無表情で、しかし隠しきれない動揺が口元に現れる。


「あれだけのことをしておいて、今度は人救うと来ましたか……私がとやかく言うのもなんですが、いろんなところにケンカ売っているという現状について、どう思っていますか?」

「やだなぁ、そんな昔の話、今は関係ないだろう?」


 なんだか不穏な会話だ。事態についていけない鋼は、周囲に助けを求める。それに応えたのは大剣を背負ったスキンヘッドの大男だった。

 大男は鋼に気付くと、気さくに声をかける。


「よう!まさかあのミーシアが人を連れてくるなんてなぁ」

「あの会話は、一体どういう意味でしょう?なんだか凄く穏やかじゃないんですが」


 男性職員は無表情を崩さないが、時折ミーシアに反論している。会話の端々から、ミーシアの悪名が広まっている事がわかる。


「ああ、あいつ自身は心配しているだけなんだ。あの通り小言が多いけどな」

「はぁ……」

「傭兵達の間じゃあ有名なんだがな。『千刃』って二つ名は聞いたことあるか?」


 後半は周りに聞こえないように声を潜める大男。


「いえ、でもそれって……」

「ミーシアの事だよ。詳しいことは本人に聞きな。俺から言えるのは、そのせいで当時の敵からも味方からも目の敵にされているってことだ」


 ほら、話が終わったようだぞと言い、鋼がミーシアがいる方を確認すると同時に、名も知らない大男は去っていく。名前を聞いていないことに気づいた頃には、彼の姿はどこにもなかった。


「ごめんごめん、話も終わったし、早いとこ登録済ませよっか」


 ミーシアは先ほどのカウンターに鋼を連れてもどった。その奥には彼女と話をしていた男性。どうやら、彼が手続きしてくれるようだ。


「えっと、お願いします?」

「なぜ疑問系なんですか」


 緊張しなくても良いですよ、と続ける男性はキールと名乗り、互助会の説明を始める。とはいえ、あまり難しい説明もない。要約すれば、

 ①ここで依頼されるのは薬草や鉱石などの採集や見分けるために一定の知識が必要とされる物の収集がメインとなる

 ②その性質上、見た目が分かりやすく、採取に特別な配慮がいらない物以外は定期的に行われる講習会に参加していないと依頼を受理できない場合がある

 ③互助会ギルドに対して会費を支払う必要があり、一定期間依頼を受けない場合、その旨を申請しなければならない

 といったところだ。また、貢献度と呼ばれる、所属する狩人ハンターを評価するシステムがある。

 これは取得した資格や依頼の達成率によって狩人を区分する仕組みで、高ければ高いほど高難度で実入りのいい依頼を受けることができる代わりに、支払う会費も高額になる仕組みだ。


「狩人になる際に注意していただきたい点です。ご質問は?」

「はーい」

「えっ、待って、何でミーシアが手を挙げるの?」


 鋼の困惑に、キールの溜め息が重なる。

 彼女はそれらに構う様子もなく、


「講習会だけど、ボクがハガネの面倒みるから受けなくてもいいよね?」


 そう言ったのだった。


「そんな事できるの?」

「ボクが持ってる資格なら、ハガネに教えられるから、試験だけ受けて合格すればいいんだ」


 聞けばかなりの特例事項のようで、講座を受けない場合、責任者となる上位の狩人が受付で申請したあと、現物納品と特徴の暗唱で合格となる。講習会を受けて合格する場合は複数人で固まって行動することが認められるが、この場合は完全にひとりでやらなくてはいけない。


「いや、無茶でしょ、それ」

「全くです。ハガネ様は特に実績がありませんし、私はおすすめできません」


 後から聞いたところによると、もともとこの制度は貴族のごり押しで作られたといってもよく、家を出た貴族子弟や自ら研究材料を取りに行こうとする変わり者の研究者ぐらいしか利用しない。そして、そういう者達はほぼ全員が魔法を使えるのだ。


「まあいいじゃん、ボクが確認したいのは、この制度使ってもいいかどうか、だよ」

「いつになく、頑なですね。――もういいです、わかりました。支部長と相談しますが、おそらく通るでしょう」


 どうやら問題ないらしい。それでいいのかと思う鋼だったが、隣をみて息をのむ。


 ミーシアは、心の底から安心したという表情をしていた。その顔があまりに綺麗で、後々になっても鋼はこの表情を忘れなかったという。




 *




 一悶着あったものの、登録してみないことにはわからない。キールの意見に異論はない鋼達は、渡された用紙に必要事項を書き記す。鋼は所属登録のため、ミーシアは鋼の後見人になるためだ。

 登録に当たって、鋼達は場所を移動していた。これはミーシアの意見によるもので、鋼の代筆を頼むと同時に応接室の使用許可を――半ば脅しに近かったが――取ったのだ。


「全く、高ランクの狩人でもここまで強権発動させるのは貴女だけですよ」


 代筆をするキールがぼやく。この二人、ずいぶん長い付き合いらしく、ミーシアが起こした騒動をよく知っていた。

 曰く、ある毒草の無毒化の処理をしていた狩人に、分けていた作業前と作業後の毒草を混ぜて二度手間を踏ませた。

 曰く、街の住人を集めて焼肉パーティーを開く。後日、参加した一部住人がなぜか結婚する。


「……何したの?」

「何って、ちょっと背中を押しただけだよ?」


 ミーシアがじきじきに振る舞った香草焼きのハーブの量を調節し、軽い精力増強の効果を持たせたらしい。そんな男女が一つ屋根の下でなにが起きたかなど、想像する必要もなかった。

 毒草の一件も、処理が完全でないものを戻していたらしい。口で言えばいいものを。


「後になって笑い話にできるものだけで十数件、そして、笑い話にできないあの事件。そもそもどうして貴女は要らないことに首を突っ込んでは面白おかしく引っかき回そうとするんですか!」


 確かに、彼女がとった行動は過激といえる。善意の行動もそれが過ぎれば、疎ましく思われるのも納得だ。


「じゃあ笑い話にならない事件って?」

「よし書けた!これでハガネはボクの息子だ!」

「――へ?よ、養子?」


 聞いてない、そんな事。

 慌てて鋼も立ち上がるが、


「ハガネ様は登録済んでいませんよ」


 キールに引き留められ、ミーシアに抗議することもできない。おとなしく座った鋼は、登録用紙の中身を確認する。


「では、改めて確認させていただきます。お名前はハガネ、歳は十六で出身地不明……」


 埋まっていないのは固有魔法ギフトや戦闘技能の有無ぐらいだ。固有魔法は秘匿することをあらかじめ決めていて、戦闘技能は後々ミーシアに鍛えてもらう算段だ。

 問題ないことを確認してもらい、特殊なインクで拇印を押す。


「以上をもって登録は完了です。のちほど登録証ライセンス紋章の短剣(ギルドナイフ)を贈呈します」

「ギルドナイフ?」

「登録証とは別に、簡易の身分証として使えるものです。これからお持ちしますね」


 そう言って立ち上がったキールは、資料をもって応接室を後にした。


「ねぇ、どうして固有魔法書かなかったの?有るのと無いのとじゃ向こうの対応も変わってくるよ?」


 ミーシアが鋼の行動を窘める。危険が多いこの世界でむしろ贈り物(ギフト)などと呼ばれるように、文字通り天からの贈り物として大々的に宣伝する人の方が多いという。


「だって、僕のそれはちょっと使いづらいでしょ?ミーシアみたいにもっと目に見えて使いやすかったらそうしたんだけどさ」


 ふーん、と相づちを打つミーシア。

 ただ、鋼としてはそれ以上に魔法の名前が恥ずかしい。おそらくこの世界では常識なのだろうが、馴染むにはまだ時間が足りず、慣れたら慣れたで、元の世界に帰ってきた時に悪影響がでそうだ。特にこんなネーミングが好きな友人とはつきあい方を新たに考える必要がありそうだ。


「ところでハガネ?」

「なに?」

「これからさぁ、ボクのこと『お義母さん』って呼んでよ」

「……見た目を考えてから言ってよ」




 *




「お待たせしました……何かありましたか?」

「あはは……どうぞお構いなく」


 銀のトレーに鞘付きの短剣(シースナイフ)と鈍い輝きを放つ金属板プレートを載せたキールの目に飛び込んできたのは、目尻に僅かな雫を湛えた若草色の小柄な女性と、気まずそうに身を竦める白灰色の少年だった。

 自分がここを離れたわずかな間になにが起きたのかと訝ったキールだが、特に追究はしないらしい。


「では改めて……こちらがギルドナイフ。刀身に我が狩人互助会ハンターギルドの紋章が刻印されたものです」


 鋼は短剣を手に取った。

 その短剣は、柄頭に大きなリングがあしらわれている。

 左手で鞘を握り、鍔に親指を当ててゆっくりと刀身を引き出す。刀身はおよそ二十センチ、刺突も出来るように切っ先は鋭く、片方の刃は鋸刃であった。キールの言葉通り、刃の根元、腹の部分に看板と同じ開いた本の上で狼と弓矢が描かれた紋章ホールマークが刻まれていた。


 元の世界で言うならサバイバルナイフというものに近い。鋼は軍事趣味人ミリオタの友人が見せてきた写真を思い出しながらそのナイフの用途を予想する。


「ハガネ様は成人年齢に達してますので、ギルドナイフはそのまま成人の証として扱うことができます。後日、証明書とともにお持ちください。名前はそのときに刻みます」

「成人した証?」

「……?」

「おおっと足が滑った手も滑ったぁ」

「へ?うわっぷ!?」


 キールに向かってばらまかれる貨幣。わざとらしいミーシアの声とキールの悲鳴が木霊する。


「って、何するんですか!?」

「いやあ、ついうっかり」


 そのまま取っ組み合いが始まり、騒ぎを聞きつけた支部長につまみ出される羽目になった。初老だが洗練された雰囲気を持つ組織の長が、扉を閉める直前の長いため息が妙に耳に残る。


「はぁ、焦った焦った。ハガネ、不用意に質問しちゃダメだよ?」


 まあ、失念していたボクも悪かったけど、と苦笑いするミーシア。


 この世界(ドゥニアムンド)での成人年齢は十五歳。より正確には、子孫を残す能力があるとされる年齢がそのまま成人年齢となるのだ。

 極端な話、長寿で有名なエルフ族は場合にもよるが二百歳になってようやく成人とされることもある。


「でも、案外成人かどうかはわかりやすいんだよ?」

「どう言うこと?」

「ハガネの世界で子どもに刃物を持たせる親はいるかい?」

「……いや、いないけど」


 要はそういうことさ、とミーシアは言う。


 地球の比にならないほど危険に満ちたこの世界では、各人が自分の身を守ることが重要である。だが、どんな人間も生まれてすぐから力があるわけではない。


「当たり前だけど、親に守ってもらうわけだ。で、大人になったら自分の身は自分で守る、てこと」


 その象徴となるものが短剣だ。多くの場合、生まれたときにへその緒を切った刃物が使われると言う。

 この成人の儀式にならい、組織に入って一人前と認められた証として、各組織の紋章が入ったナイフが渡される。かつて狩人互助会では、名前と紋章が入ったギルドナイフそのものを加入証明としていたが、現在は利便性向上の為、ライセンスと呼ばれるプレート型の証明書が発行される。



 ハガネ


 区分《狩人》

 総合評価:F

 登録地:メイジス

 取得資格:なし



 金属特有の鈍い輝きを放つそれは、魔力で定着させているという黒い文字で鋼の今の立場を記していた。互助会の評価システム上、総合評価が一足飛びに上がることはないらしい。

 文字は特殊な魔道具でしか書き換えることはできないため、偽造や詐欺などが起きたことはないという。


「ちなみに無くしたら再発行は360万ディール、街で暮らす人ならおおよそ一年半は生活できる値段だよ」

「……」


 ギュッと、思わずライセンスを握る。

 当然だが、ここは日本ではなく、路地裏から感じる気配はどこかほの暗い。


「これ、売ったら高いとかないよね?」

「さあ?使われる金属は結構希少らしいから出すとこに出せば、あるいは」


 聞かなきゃ良かったと後悔する鋼。

 結局彼は、宿に戻るまでスリを警戒してなれない心労を抱えるはめとなった。

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