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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
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一緒に歩こう

 シアン様の戴冠式。それは玉座の間で行われる。

 長らく王宮にいた私だけど、先日の式の練習ではじめてこの部屋に入った。

 今、玉座には陛下が、その横の席には正妃様がお座りになっている。そして、玉座にまっすぐのびる緋色の絨毯の両脇には全大臣、将軍、上流から下級に至る全貴族がそろい踏みしていた。

 私の仕事は、陛下から王冠を譲られるシアン様の後ろに従い進み、ご正妃様から錫杖を譲り受けること。

 ただそれだけ、ただそれだけ。

 呪文のように私は心の中でそう繰り返す。

 玉座の間に入る前、シアン様は緊張で慄く私の手を強く握り言った。

「怖がる必要はない。君は俺だけをみていればいい」

 いつもと変わらない、ちょっと悪戯っぽくキラキラしてるシアン様の瞳に少し安堵した。

 とはいえ、緊張のすべてがほぐれたわけではないけれど・・・。

 扉が開き、全ての目が私たちの方に向く。私の前に立つシアン様の背中は、いつもよりすごく大きく感じられた。

 確かな足取りで前に進むその背中を見つめながら、私も背筋をしゃんと伸ばし、できるかぎり堂々と歩む。

 玉座の手前で立ち止まったシアン様が膝まづき、私もその後ろでそれに倣う。 

「シアン・ウェイザード、我が長子にして、太陽に愛されし者よ。面を上げよ」

 陛下が朗々とした声でシアン様の名を呼ぶ。

 陛下にもご正妃様にも、先日ご挨拶に伺ったけど、その時はとても二人ともお優しい雰囲気だった。

 でも今日は二人ともなんとも荘厳な空気を醸し出している。

 呼ばれたシアン様は顔をあげるけど、私はまだ顔を伏せたまま。

 ああ、できるならこのまま顔、あげたくない!

「ニナ・ハークバーグ、我が妹の娘にして、トリドの娘よ。面を上げよ」

 が、陛下は淡々と私の名も読み上げる。

 私は重い頭をゆっくりと持ち上げた。

「シアンよ、前へ」

 シアン様が立ち上がり一歩前へ出る。

「我が跡をお前に託すぞ。そこへ」

 陛下のすぐ前まで進んだシアン様は、もう一度膝まづいた。

「皆も見届けよ。今この時から、玉座の主はここにいるシアン・ウェイザードである!」

 高らかに陛下は宣言すると、自らの頭部に載せていた冠をおろし、シアン様の頭に載せた。

 立ち上がるシアン様に向けて、周囲からどよめきのような歓声と割れんばかりの拍手が起こる。

 私も感無量、瞳が涙でうるうるしていることだろう。

 さっきまでの緊張はどこへやら。頭の中を少年時代のシアン様が走り回っている。ご立派になられたなぁ・・・。

 今、この時からシアン様は「皇太子殿下」じゃなく「陛下」になるのね。

「ニナ・ハークバーグよ、前へ」

 先代陛下の後ろに控えていたご正妃様が、先代陛下の横に進み出て私を促す。

 私は、はっと意識を戻して、慌てて立ち上がった。いけないいけない、感傷に浸りすぎだ!

 私もシアン様と同じように前に進み、シアン様の横に立ち止った。

「この後、シアン陛下を様々な困苦が襲うこともあるでしょう。どうか、陛下をその全てでもってお支えください。そちらへ」

 ご正妃様のさすところ、シアン様の横で膝まづく。

 ご正妃様は静かに、でも大きく息を吸い込むと、凛とした声で宣言された。

「皆様もご覧なさい。こちらが、シアン・ウェイザード陛下の正妃、ニナ・ハークバーグです。今この時より、国の母はこの者です」

 ご正妃様が差し出す錫杖を私は頭上で押し抱いた。それを胸の前で抱きながら立ち上がる。

 一拍ののち、シアン様と同じように歓声と拍手が鳴り響く。

 先代陛下と、先代正妃様が横へ降りると、私たちは玉座の前に並び立った。



 手に持つ錫杖の持つ意味や、向けられる人々の視線に沈み込みそうになるけど、でも私は顔を上げて前を見る。

 何も持たず、何もできない私だけど、私にできる精一杯でシアン様を支えていこう。この国を支えるシアン様を。きっとシアン様も私を支えてくれるだろう。

 それに・・・いつだってこの方は私がいないとダメなんだから!





 この日、この時が、後の世に賢王として名を残すシアン・ウェイザードの治世の始まりの時である。

 シアン・ウェイザードは身分の貴賤なく、すべての民のために様々な改革を行った王として名を残す。

 またその正妃ニナ・ハークバーグは、常に彼に寄り添い、陰ひなたに彼を支えた良き妻、良き母の鏡として後世の人々が人々が名を上げる。

 そして、賢王と彼の唯一無二の妃の姿は・・・。正妃が目にすればいたたまれなさに悶え死んだかもしれないが、舞台や小説など様々な形をとり、情熱的な恋物語として語り継がれることとなった。

更新が遅くなりました(汗

省いてしまったエピソード等もあるので、番外としてまた書いていくかもしれませんが・・・なにはともあれ、これで一応ニナとシアンのお話は完結です。

初投稿で、読みづらい点等、多々あったかと思いますが、最後までお読みくださりありがとうございました!

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