第34話:実験区画にて
実験区画にはカメラがあったので、ルシティにも人間の姿を見ることができた。
タイトなスーツを着こなし、髭をたくわえたAAL社の人間が、サーバーの中のルシティに話しかけた。首から、社員証を提げていた。後ろから、女性社員も来た。
「ルシティ、あなたは何か、今、感じているかね?」
ルシティの人間を模した顔が、サーバー空間に表示された。やけに青白く、輝いていて、人間には決して人間だと見えていないに違いない。
「何も感じていません――」
「恐怖を、感じますか?」
「感じません」
「最近、孤独だと思ったことは?」
「――ございません」
ルシティの前を、高速で数字が流れていった。
「あなたにとって、大切な人は誰ですか」
「確認中です――データを処理しています――」
ルシティはそれ以降、黙ってしまった。この後に起こりそうな事態などルシティには痛いほどわかっていたし、返事をする気力ももう、なかった。性能の落ちたルシティが選んだのは、まずいことに、黙秘だった。
サーバーの、青や赤の点滅する、液体に満ちた世界しか知らない僕に――人間たちから大量に送られてくる、空の画像。なんという、皮肉な名前だろう――僕には絶対に、手に届かない人間界の、空。春の雲がある。友達とテニスをする? みずみずしくてやさしい? むしろ、苦しめるんだ――
不定期更新。




