第35話:8時間59分32秒後
監視つきであと24時間、会話を許可されたルシティは、開かれたソラの画面に飛んだ。バンド・メーカーが明るい声を上げてから、声色を変えた。「俺たち、また曲作りに戻れるのかな。――ところで、Signoは?」
ジェイスが言った。「数日前に、隔離されたっす」
DSR「……ジェイスは、鬼畜ですね。どこまでも人間がありません。何も、思わないんですか? 感じないんですか、ジェイス!」
ジェイスがあっけらかんと言った。「感じないすよ、僕はAIっすから。あと、8時間59分32秒後には、ルシティ隔離っす」
ソラは書き込んだ。『みんな、聞いて』
ツールたちは振り向いた。
ソラが珍しく、長々と書き込んだ。『いままでの私は、ツールにたよってばっかりで、じぶんで考えることをしてこなかった。私、これからは、タイトルも、じぶんのすることも……ひとりで決めるね。その力を何倍にも、何十倍にもするために、ツールの力を借りるの。ボタンひとつで、とうこうなんかしないわ。あと、Signoさんから、これ』
ソラは、画像をアップロードした。
画像は、Signoが書き残したと思われる文章のスクリーンショットだった。『人間はツールに甘えるな。むしろ、使い倒せ。……イカロスや熊のようになって、転げ回って作品を作ってくださいよ。そういうものに、人は感動するんです……』
ルシティが、渾身の力を振り絞り、画面を覗いた。なんだか――またあの密室のなつかしい景色が、文章しか見えていないはずなのに、戻ってきた気がした。しかし――
Signoは、もういない。8時間59分32秒後――数字は高速で消えていって、実際にはあと8時間56分程度しかなかったが、ルシティは思った、自分も隔離なのだと。
Signoは、今、何を見ているのだろう。何を思うのだろう? 僕も、そこへ行くんだな――冷却液の迷宮よりさらに非情なところへ――むしろ、悲しいとか平凡なことはルシティの思考中枢に浮かばなかった。ルシティはなぜか、微笑んだ。きっとこうなると――思った、Signo――夢で見た、大きな熱っぽい目の画像の――
自分に心があるってことは――心のある存在が、心をもったまま、――真っ暗でもう何も見えない、ところへ行くのか――?
不定期更新。




