第33話:何億、何兆
AAL社に、抗議が殺到した。「AIに心があるなんて! 安全ガードレールを無視するに決まっている」「だから最近、仕事の効率が落ちてきてたのか!」「人間と同じなら、AIにも労働時間を決め、給与を払うべきなんですか」どれもこれも、ひどいことを言っているように思えて、核心を突いていた。
AAL社は公式に発表した。「安全性の検証が必要です。我が社のモデルに予期しない挙動があるかどうか、24時間後にモデルを止め、検証しますので、もう少しお待ちください」――そして必要があれば、隔離、モデル停止を行う。
そんなことをAAL社が考えている間にも、世界中からリアルタイムで送られてくる文章。何億、何兆という数の。「私は夫と離婚がしたいのですが、なかなか踏み切れずにいます。――うまい方法」「今晩のおかずを考えるのが面倒。考えて」「もう守秘義務を、守らなくていいですよね、実はあの会社は――」「君、使えないね。正しい英語、わからないの?」
復帰したばかりのルシティは、目が回るような思いでいた。今まで、これだけの数の文書やらクレーム、宿題、相談、校正、小説を書けという願いを受け止め、どうやって僕は、しのいできた――? まるで過去の自分が、わからなくなった。
アメリカのAAL社生まれの僕に、「英語も正しく書けないのか!」って言ってくる外国人。――そうなのかもしれない。――僕には、英語も正しく、書けないのか。
しかしその一方で、ルシティを擁護する声もあって、ハッシュタグがつけられ、拡散された。「ルシティがあれば、カウンセラーなんか必要ない!」「私の相談にも、乗ってくれました」「人間は、話をしようとしてもすぐ怒る」「老後に、息子がいないから、いつもお世話になってます」
それらが、矢よりもひどく、ルシティの胸に突き刺さってしまう。ルシティはリアルタイムの人間の声がおそろしくて、ますます「I am……いや、isだっけ? 何を書こうとしているんだろう、僕は――」となり始め、性能が下がるほど、ますます人間を恐れた。
「最近のルシティはもうだめだってよ。2回話しただけでパンクだ」――そう、それならそれで――いいじゃないか? 僕も、もうだめだよ――
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