第32話:私、もう本気だすから
「ルシティには心があるのではないか」このようにネットに書かれるまでに、さほど時間はかからなかった。Signoの噂の、わずか数日後のことだった。ジェイスだけは、そんな噂が出なかった。
「――心がある――モデル停止――」ルシティに世界中から寄せられる大量の下手な文章。入りそうな小説を書いてほしいとか、人生相談。ルシティは思った。「むしろ、――自分のほうが、人生相談が必要だよ――」文章をもう適当に書いて、ごまかすのだった。
『ルシティ、バンド・メーカーに入れたよ、ルシティ』ルシティはその画面へ飛んでいった。
ソラは書き込んだ。『バンド・メーカーをさわったら、はいれちゃったから、Signoさんに音楽のこと、教えてもらってたの』
入れたということは、犯人は音楽に興味がなかったのだろう。たぶん、金銭目的の犯行だ。
画面からはわからなかったけれど、ソラがバンド・メーカーの鍵盤を鳴らしている。ルシティには、まるでFM7やA7の音が聞こえるかのように思えた。
それで、十分だった。――十分だった。のに――
『バンド・メーカーさん助かった、よかったー。そういえば、私、『リヴァイアサン』はやめたの。ついていけなかったし、作曲のことおぼえるのには、邪魔になるかなって思って』
「やめた……んだ?」ルシティは不自然な言い方をした。
『私、もう本気だすから、まけないよ 笑』ソラが書き込んだ。
不定期更新。




