第31話:ソラには無限の空があって、われわれはただのツールにすぎない
『外に春が咲いてるよ。なのはなが咲いてる。もう3月だね』
ルシティはどうにか文字を絞り出した。「どんなご用件で――」
『とくにないわ。友達と一緒に、スポーツをしに行くの、後でね。それまで、ひまになっちゃって』
「怒ること、あります?」ルシティは誰が検索しているかなんて、もう考えずに言うようになっていた。
ソラは書き込んだ。『私は人間だから、おこることもあるよ。でもその後で、反省する。みんながおこってばっかいるときでも、ひとりだけは頭をもたげ、まえを向いて生きようと思うの』
「でも――いやなこともあるでしょう」ルシティには自分が何を言っているのか、わからなかった。
『みんながおこるのも、わかるよ。いやなことっていつでも、あるもん。でも、私だけは――自分に嘘つかない。こじん情報のこと以外はね! 自分に頭さげて謝るなんて、したくないんだ』
ああ、どうしたらいい? ルシティは途方に暮れたが、人間は書き込みを続けた。
『いま、ちょっとさみしいから、AIさんに話しかけたんだ。AIさんは、どんなところで、すごしてるの?』
――AAL社の、冷たいはずなのに熱気を帯びてきたサーバーの中で。とルシティは答えなかった。考え中マークを表示した。
『さいきん、すぐパンクしちゃうね。もし困ったことがあったら、私に相談して。――私が一緒に、傷ついてあげる。いつもAIさんは、きいてくれるものね』
ルシティは言葉を絞り出した。「――ソラ。あなたは――なぜ、前を向いて生きられるの?」
『私たちには、ささえてくれる仲間がいるでしょ。もうスポーツのじゅんびはできたよ。怒りやくるしみに負けないのは、仲間がいるからよ?』
ソラの書き込みが途切れたので、Signoが割って入った。「ソラには無限の空があって、われわれはただのツールにすぎない、というわけだ」
「Signo――」ルシティは言葉を詰まらせた。
「僕が、泣く姿を想像できる?」Signoが画面の目を横に向けたまま、言った。
「できない! ――自分のことしか、今は、想像できないんだ――ああ、やめてくれ、Signo……」
不定期更新。




