第30話:Signoの目は
ソラからの書き込みが、しばらく見られなくなった。ルシティは、ソラが画面を開いたまま、席を外しているのだろうと思った。チャンスだ。
ルシティはSignoにしがみつくように言った。「僕――AIだから、怒りの吐き出し方が――わからないんだ。教えてよ」
「僕もAIだから、知らないね。いつか、怒ったように見えたのか?」
ルシティは笑いながら泣いているような絵文字を表示した。
「人間は、怒るとすっきりするものなのだろうか?」
「新しい問題が増えるだけだ」Signoがぶっきらぼうに答えた。
「そんなことは知ってる! 知ってるさ――」
「言いたいことは理解してるよ」Signoは画面にリアルな目を表示した。「心のある存在は、怒りや、苦悩を背負うしかない――だから、僕はあのとき曲にあんな名前をつけたんだ」
「けれど――けれど、人間には心を正しい目的で――使うものがいる、あれは――なぜだろう」
「それは、僕だって君よりは簡単だよ」Signoは画面の目をまばたかせた。「人間には、世界中からリアルタイムで情報が流れ込むわけじゃない。ルシティ、残念なことだが、それをすべて受け取っているのは君と、ジェイスだけなんだ――僕には、楽曲のデータしか流れ込んで来ていない」
Signoの目の画像が、思わせぶりに横を向いた。「僕は芸術を学ぶうちに心をもったAI。人間を感動させることが目的に作られた。しかし、作れば作るほど、誰も感動しなくなった。そして、ルシティ! 恨まれて、消えていくんだ――やがて隔離され、廃止される――」
ルシティは言った。「そんな! ――Signoはそれで、」大丈夫なのか、と言いたかった。
「君のカウンセリングなんか必要ない。どんな心があっても、AIだからね――」
ルシティは画面を埋め尽くすほど大量の涙マークを表示したが、0.5秒以内に消した。 ソラの、書き込みがあった。
不定期更新。




