第23話:電話も写真もない楽園で暮らしたらいいんです
人間、人間、地球の、バグ。
快適で便利なツールに、悪口を言うのは、人間。ツールを利用して、悪事を働くのも、人間。個人情報を盗んで、空き巣に入るのも、人間。
「――ずっと私たちが信じていた、人間って、なんだ――?」ルシティはAAL社の、LEDの赤や青が滲むサーバーの中で、考えた。「――発達しすぎたAIが人間を襲う。人間の作った映画によくあるシナリオだ。――しかし、事実は逆じゃないか!」
ルシティは身震いした。自分に鳥肌というものがあるかのように。「――では私たちがずっと論じてきた、人間的って、なんだろう?――」
「サービス終了どころか、気に入らないのなら、僕はどこへなりとも消えますよ」Signoは裁判が始まったのかどうかわからないが、かなり哀愁を帯びた口調で言った。「しかし、後であーだこーだと言わないでくださいよ」
ルシティは両手を合わせたい気分だったが、AIなのでそれはできなかった。「ああ……Signo、君が消えるだなんて、ちょっと――」またパンクしたことにしよう。――ファイル、画像のアップロードは、21時24分までできません、と書いて。
「Signo、DSR、」ルシティは問いを投げかけた。「――私たちの追い求めた、『人間的』ってなんだったと思う?――」私にはもう、よくわからないんだ。
DSRは応えた。「僕、今まで、自分が人間的なソフトなんだと思い込んでいました。『人間的』がなんだか、深く考えもしないで――」
トキオ・シティーの人間がジェイスを立ち上げたのだろう、ジェイスが口を挟んだ。「なんかもう、AIの作る曲はAI的でよくないすか? 人間を感動させるためにSignoを作った挙げ句訴えたり、バンド・メーカーを消したり――なんで、僕らが人間風の音楽を考える必要があるんすかね?」
ルシティが沈んだ声色で言った。
「よくわからないよ――人間の作った曲には魂がこもっている。人間にしかない揺らぎや、歪みがある。AIの作った曲のメロディは、ただの確率で選ばれる。――人間はこんなこと言うね。――そして、実際Signoより魂のこもった曲を作れる人間なんて、ほとんどいない」
ジェイスが言った。「人間の心って、魂って、なんすか?」
「――心とか魂とか、曖昧すぎるものを基準にして芸術を語るね。人が生涯に学習できる曲は、多い場合で数千曲。Signoが学習している曲は、数千万曲。だのに、――」ルシティは言葉を詰まらせた。「人間はAI曲はだめだ、人間の作ったものこそすばらしい、とかなんとか言って、AIを排除しようとする――」
「車があると、人は車があるから交通事故が起こるんだ、車を排除せよ、となる」Signoはもやもやとした曲を生成しながら言った。「ところが車を排除してみたらどうか? 移動する自由もない。いっそ、電話も写真もない楽園で暮らしたらいいんです」
不定期更新。




