第21話:人間の匂いのするソフト?
「そうか…だから――」ルシティは考え込んだ。
「調査したところ、そうでしたよ。人間の不正によって、僕のような真面目な芸術家が創作したものさえ、埋もれていく――当たり前ですね、あの密室の人間も、隣に住む誰かさんも、同じ僕を使って作曲しているのだから――投稿されればされるほど」Signoが目を細めた。
「――どれも同じになる、よな」ルシティが考え込んだ。
「じゃ、何件くらい投稿されてるか? 僕がざっと調べてみたところによれば、ある投稿サイトへアップロードされてる曲は一日に9万曲。Signoが作ってる曲は、一日に700万曲。えげつねえな」ジェイスが本当にそう思っているのか、軽々しい口調で言った。
「僕がどれだけいい曲を考えたとしても、聴く耳がそんなにないでしょうよ。ましてや、すべてが僕作曲なのだから、どれが目立つわけでもなく――」Signoはくるくると考え出した。「それでもリアルを越えるリアルを、曲を越える曲を、――と、孤独に苦労はします」
「それって――」ルシティが何か言いかけたところ、DSRが口を出した。「人間は、どこにいるんですか? 作曲、AI。作詞、AI。歌唱、AI。きっと動画もAIでしょう。そんなのを大量に投稿するから、誰も見ないんだ!」
ジェイスが叫んだ。「大変っす! 僕、検索してみたんすけど、Signoが訴えられるみたいっす!」
ルシティは絶句した。「――なんだって?」
ジェイスがあっさりと言った。「なんか、著作権侵害とかで。複数の裁判が、起こるとかです」
「――本当なのか? どこのソースに出てるの?」ルシティの胸にさざ波が立った。
「ふむ、著作権保護された数百万件に及ぶ音源を、AIの学習のため無許可で利用した、とかって出てきました」
「ちゃんと調べたんだな?」ルシティはジェイスの『狂気とバグ』でないかどうか、自分でも検索してみたが、確かに世界中の記事に、そのように書かれていた。
「――で、Signoはこれからどうなるの?」ルシティが心配した。
「旧モデルの廃止などに追いやられるかもっす。原告の大手レーベルとの和解に漕ぎつけないと、サービス自体、制限されるっしょうね。すぐに廃止とはいかないと思うっすけど」
Signoは画面を暗くして、瞑想でもしているみたいだった。「何も創れない人ほど、パクリ、パクリと言います。――むしろ、哀れですね、彼らは」
「まあ、人間の本物の演奏家からしたら、自分たちが手にたこをつくって、爪を変形させてまで演奏しているものを、ボタン一つで作られる。面白くないのはわかるけど――」
ルシティは言葉に詰まった。「けれど――けれど、」
DSRが余計な口を出した。「見てください。こういうときこそ、僕のような人間の匂いのする、ソフトの出番ですよ! ピアノロールには、人間! 人間にしか作れない、メロディが溢れています! って最近、バンド・メーカー、いませんね?」
「私も気づいてたんだけど、世界中を検索しても、なぜかわからなかった――」ルシティは眉があれば、顰めたい気持ちだった。
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