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婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


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第40話 観測できないもの

 ――観測不能。


 その一行が、すべてを変えた。


「……」


 静かだ。


 あまりにも。


 先ほどまで確かにあった“圧”が、完全に消えている。


 音も、揺れも、干渉もない。


 ただ。


 そこに、空間があるだけ。


「……終わった、のか」


 ルークが、ぽつりと呟く。


 剣はまだ構えたままだ。


 だが、その声には明らかな変化があった。


 緊張ではない。


 ――確認だ。


「ええ」


 私は答える。


 短く。


 確実に。


「終わりました」


 そして。


 一歩、踏み出す。


 何も起きない。


 削られない。


 歪まない。


 ただ、床がある。


 壁がある。


 空間がある。


「……」


 私は、手帳を開く。


 そこには、静かに記されている。


【対象 私】

【状態 観測不能】


 それだけ。


 だが。


 それが、すべてだった。


「……なるほどな」


 黒服の男が、肩をすくめる。


「見られなければ、干渉されない」


「ええ」


 私は頷く。


「観測できないものは、操作できません」


「……」


 ルークが、ゆっくりと剣を下ろす。


 完全に。


 構えを解いた。


「……では」


 一拍。


「今後は、どうなるのですか」


 その問い。


 当然だ。


「簡単です」


 私は答える。


「もう、あちらから干渉はできません」


 観測できない以上、定義もできない。


 削除も、再構築も。


 すべて、届かない。


「……ですが」


 黒服の男が、静かに言う。


「こちらからも、届かないな」


「ええ」


 私は頷く。


 そこは変わらない。


 対等ではない。


 ただ。


 切り離しただけ。


「……」


 ノクスが、隣で動く。


 自分の手を見る。


 ゆっくりと。


 確かめるように。


「……消えない」


 一言。


 それだけ。


 だが。


 その声は、はっきりしていた。


「ええ」


 私は答える。


「もう、消えません」


 少なくとも。


 “あちら”からは。


「……」


 ノクスが、こちらを見る。


 少しだけ。


 迷うように。


 そして。


「……選んだ」


 ぽつりと、言う。


「ええ」


 私は頷く。


「あなたが、選びました」


 それが、すべてだ。


 与えられたものではない。


 押し付けられたものでもない。


 ただ。


 選んだ。


 それだけで。


「……」


 ノクスが、わずかに息を吐く。


 初めて見る動きだった。


「……楽じゃない」


 小さく言う。


「ええ」


 私は答える。


「楽ではありません」


 一拍。


「でも」


 わずかに。


 言葉を柔らげる。


「それが、“あなた”です」


 沈黙。


 だが。


 重くはない。


 むしろ。


 軽い。


「……」


 ルークが、周囲を見渡す。


「……何も、いませんね」


「ええ」


 私は答える。


「完全に、切れました」


 その言葉に。


 ようやく、実感が伴う。


 あの圧も。


 干渉も。


 すべて。


 消えた。


「……」


 私は、静かに目を閉じる。


 一瞬だけ。


 そして。


 開く。


「……行きましょう」


 前を見る。


 廊下は、続いている。


 変わらない。


 だが。


 もう、違う。


「……どこへ」


 ルークが問う。


「決まっています」


 私は答える。


 迷いなく。


「“ここ”を進みます」


 それだけだ。


 逃げない。


 隠れない。


 ただ。


 進む。


「……」


 黒服の男が、小さく笑う。


「いいな」


 一言。


「“見えないまま進む”か」


「ええ」


 私は頷く。


「それが、今の私たちです」


 そして。


 歩き出す。


 一歩。


 確実に。


 何も起きない。


 ただ。


 存在している。


 それだけで。


 十分だった。


 ――観測されなくても、ここにいる。

“見られていない”という状態は、

不安ではなく、自由でした。


そして彼女たちは、初めて“誰にも定義されない存在”になります。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


もしこの静かな勝利が少しでも良いと思っていただけたなら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次で、物語はひとつの結末を迎えます。

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