表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢ですが、“記録を書き換える力”で全部ひっくり返します  作者: 夜空ミリア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/41

第30話 名前を奪われる側

 ――標的が、変わった。


 その事実だけで、十分だった。


 空気が重い。


 先ほどまでとは違う。


 “圧”の質が変わっている。


 外から押されるのではない。


 内側から削られる。


「――対象 記録官」


 命名管理者が、もう一度言う。


 その声は変わらない。


 だが。


 意味が違う。


「……来ます」


 ルークが、低く言う。


 剣を構える。


 だが。


「いいえ」


 私は一歩前に出る。


「それは意味がありません」


「お嬢様!」


「これは物理ではありません」


 短く切る。


 ルークが歯を食いしばる。


 理解している。


 だからこそ、止められない。


「……」


 私は手帳を開く。


 ペンを握る。


 そして。


 来る。


 その瞬間。


 手帳の文字が、歪む。


 揺れる。


 崩れる。


【記録官】


 その文字が。


 薄くなる。


「……っ」


 ルークが声を漏らす。


 見えているのだろう。


 私の“定義”が。


 削られている。


「――再定義」


 管理者が言う。


 その瞬間。


 私の中で、何かがずれる。


 思考ではない。


 もっと根本的な。


「……」


 私は、呼吸を整える。


 焦らない。


 これは。


 ルールの問題だ。


 ならば。


 対応は一つ。


「……書きます」


 私は、静かに言う。


 ペンを置く。


 インクを走らせる。


【対象 私】


 その瞬間。


 空気が、ぶつかる。


 内側と外側。


 記録と上書き。


「――干渉」


 管理者の声。


 だが。


 私は止めない。


 続ける。


【役割 記録官】


 インクが、深く沈む。


 文字が、固定される。


「……っ!」


 ルークが息を呑む。


 戻る。


 わずかに。


 だが、確実に。


「……なるほど」


 黒服の男が低く笑う。


「自己定義で抵抗するか」


「当然です」


 私は答える。


 短く。


 だが。


 これでは足りない。


「――再定義」


 再び、声。


 今度は強い。


 圧が増す。


 手帳が、軋む。


【記録官】の文字が、再び揺れる。


「……」


 私は、目を閉じる。


 一瞬だけ。


 そして。


 思い出す。


 自分が何か。


 なぜ、ここにいるのか。


 何をしてきたのか。


 それは。


 誰かに与えられたものではない。


「……」


 目を開く。


 そして。


 書く。


【役割 記録官】


 その下に。


【理由 私がそう在ると決めた】


 インクが、強く染みる。


 その瞬間。


 空気が、止まる。


 完全に。


「――」


 管理者の声が、一瞬止まる。


 初めて。


 明確に。


「……」


 私は何も言わない。


 ただ。


 立っている。


 それだけでいい。


「……戻りました」


 ルークが、静かに言う。


 視線が、こちらに戻っている。


 輪郭が。


 安定している。


「ええ」


 私は頷く。


 そして。


 理解する。


 これは。


 “奪われる側”の戦いだ。


 与えるのではない。


 守る。


 定義を。


「……面白い」


 黒服の男が笑う。


 今度は、はっきりと。


「他人に与えられた名前ではなく、自分で定義した役割か」


「ええ」


 私は答える。


「それが、一番強い」


 外から与えられたものは、奪われる。


 だが。


 内から決めたものは。


 奪えない。


「……」


 管理者が、わずかに動く。


 一歩。


 距離を詰める。


「――対象 再評価」


 声。


 変化がある。


 わずかだが。


 確実に。


「……」


 私は、動かない。


 ただ。


 見返す。


 そのとき。


 横で。


 ノクスが、動いた。


 ゆっくりと。


 だが。


 確実に。


 こちらへ。


「……ノクス」


 私は呼ぶ。


 短く。


 ノクスは止まらない。


 そして。


 私の横に立つ。


 完全に。


 並ぶ。


「……」


 沈黙。


 そして。


 ノクスが、管理者を見る。


「……選ぶ」


 一言。


 それだけ。


 だが。


 意味は重い。


「……こっち」


 その瞬間。


 空気が、変わる。


 はっきりと。


 決まる。


 立場が。


「……」


 私は何も言わない。


 だが。


 わずかに。


 息を吐く。


 それで十分だった。


「――対象 更新」


 管理者の声。


 だが。


 次の言葉は、出なかった。


 沈黙。


 そして。


 わずかに。


 後退する。


「……退きましたね」


 黒服の男が、低く言う。


「ええ」


 私は答える。


 短く。


 確実に。


 勝った。


 小さく。


 だが。


 明確に。


 そのとき。


 手帳が、震える。


 視線を落とす。


 新しい文字。


【対象 ノクス】

【状態 同行】

【関係 選択済】


「……」


 私は、静かにそれを見つめる。


 そして。


 理解する。


 これは。


 始まりだ。


 “選ばれた”その先の。

ついに、“選ばれました”。


それは契約でも、命令でもない。


ただの選択。


ですが――それが一番強い。


もしここまで楽しんでいただけたなら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次は、“選ばれた結果”が動き出します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ