↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離縁の日まで、契約どおりに愛しません ~冷酷と噂の辺境伯に嫁いだ誓約術師は、三年で出ていく予定でした~  作者: やまご


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/49

第四十七話 銀貨十二枚の意味

屋敷に戻って、私は帳簿の該当箇所をもう一度開きました。


二年前の十月から十二月。銀貨十二枚が、十四回。


「バルトさん。この支払いは、誰がお渡しになりましたか」


「私でございます」


家令は言いました。


「毎週、お帰りの際に、玄関でお渡ししておりました」


「請求書はございましたか」


「ございません」


バルトは言いました。


「金額は、初めにお聞きしました。週に銀貨十二枚と」


「先方から仰ったのですか」


「はい」


私は、手を止めました。


「――ご自分で額を仰った」


「さようでございます」


家令は言いました。


「私は、ヴェルナー殿の代わりの方だと思っておりましたので、そういうものかと」


   ◆


私は、ヴェルナーの控えを開きました。


十二年分の記録です。報酬の額は書かれていませんが、訪問の日数は記載されています。


「バルトさん。ヴェルナーさんへの報酬は、どのように」


「一回の訪問につき、金貨一枚でございます」


「滞在は」


「三日から五日ほど」


私は、計算しました。


金貨一枚は、銀貨で百枚ほどです。四日滞在として、一日あたり銀貨二十五枚。


「週に一度で銀貨十二枚というのは」


私は言いました。


「一日あたり十二枚でございます。ヴェルナーさんの半分以下でございます」


「安うございますか」


「安うございます」


私は言いました。


「王都から来る読み手としては、破格でございます」


   ◆


「セヴェリン様」


執務室で、私は数字を示しました。


「銀貨十二枚は、報酬としては低すぎます」


「相場を知らなかったのではないか」


「誓約書を扱える者が、相場を知らないということはございません」


私は言いました。


「それに、この額には見覚えがございます」


「どこでだ」


私は、四十四通の束から一通を抜き出しました。


「二十年前の小作契約でございます。当家が雇う日雇いの賃金が、定められております」


私は条文を示しました。


「一日あたり銀貨十二枚」


セヴェリン様が、身を乗り出しました。


「日雇いと同じか」


「同じでございます」


私は言いました。


「当家が定めた、最も低い賃金でございます」


   ◆


執務室が、静かになりました。


「――叔父は、日雇いの額で受け取っていたのか」


「ご自分で、その額を仰ったそうでございます」


私は言いました。


「バルトさんが、初めに聞かれました」


「なぜだ」


「分かりません」


私は言いました。


「ただ、額を自分で決められるということは、請求できる立場だったということでございます」


「請求権があったのか」


「私的誓約の第三条により、先代様の死後、乙は請求できるようになっております」


私は言いました。


「請求できる立場で、日雇いの額を十四回だけ受け取って、帰られた」


「十四回で、銀貨百六十八枚」


セヴェリン様が言いました。


「金貨で、十七枚だな」


「十七枚でございます」


私は言いました。


「請求できたはずの額とは、比べものになりません」


   ◆


私は、帳簿の頁を見下ろしました。


十四回。七日おき。雪で一度飛んで、十二月の末で終わり。


「バルトさん」


私は家令を呼びました。


「最後の日のことを、覚えておいでですか」


「十二月の末でございますね」


彼は言いました。


「覚えております」


「どのような」


「いつもどおりでございました」


バルトは言いました。


「書斎から出てこられて、玄関で銀貨をお受け取りになって、会釈をなさって」


「何か仰いましたか」


家令は、少し考えました。


「――一言だけ」


「なんと」


「もう来ない、と」


私は、顔を上げました。


「理由は」


「仰いませんでした」


バルトは言いました。


「私も伺いませんでした。ヴェルナー殿の代わりの方が、お役目を終えられたのだと思いましたので」


   ◆


「そして、翌月からヴェルナーが来た」


セヴェリン様が言いました。


「はい」


私は言いました。


「一月に調停料でございます」


「入れ替わりだな」


「入れ替わりでございます」


私は、帳簿を繰りました。


「セヴェリン様。二年前の冬、屋敷の誓約書はどうなっておりましたか」


「知らん」


彼は言いました。


「私は春に戻った。戻ったときには、書斎は散らかっていた」


「散らかっていた、と」


「紙が山になっていた。誰かが探した跡だと思った」


私は、そこで少し考えました。


「セヴェリン様。三か月間、週に一度、書斎に入っていた者がおります」


私は言いました。


「その者が探したのであれば、三か月かけて散らかしたことになります」


「そうだな」


「三か月あれば、片付きます」


私は言いました。


「六百通を分類するのに、ヴェルナーさんは十二日でございました。三か月あれば、四回できます」


   ◆


「では、散らかしたのは別の者か」


「あるいは」


私は言いました。


「片付けなかったのかもしれません」


「なぜだ」


「探し物が、見つからなかった場合でございます」


私は言いました。


「見つかれば、片付けて帰ります。見つからなければ、次に来たときにまた探します。三か月続けて見つからなければ――」


「諦めるか」


「諦めて、もう来ないと言うかと存じます」


   ◆


私は、四十四通を見ました。


「セヴェリン様。二年前の秋、この四十四通は、どこにございましたか」


彼が、顔を上げました。


「ヴェルナーが持っていた」


「はい」


私は言いました。


「九月の初めに四十四通を先代様にお渡しして、先代様が三日ご覧になって、亡くなられました。その後、ヴェルナーさんが片付けて――」


「持ち帰ったのか」


「持ち帰られました」


私は言いました。


「ですから、二年前の秋から冬、四十四通は屋敷にございませんでした」


セヴェリン様が、椅子から立ち上がりました。


「――探していたのは、これか」


「分かりません」


私は言いました。


「ただ、土地に関する誓約書が二十年分、屋敷から抜けておりました。土地の書類を探していたのであれば、見つかるはずがございません」


「ヴェルナーは、それを知っていたのか」


「知っておられたはずでございます」


私は言いました。


「ご自分で持ち出されたのですから」


   ◆


私は、そこで一つの筋道を思いつきました。


思いついて、しばらく黙っていました。


「どうした」


「――申し上げてよろしいでしょうか」


「言え」


「ヴェルナーさんは、四十四通を二年間、返されませんでした」


私は言いました。


「返す機会は四度ございました。それでも返されませんでした」


「そうだな」


「そして、今年、私が来てから返されました」


私は言いました。


「読める者が、この家に来てからでございます」


セヴェリン様が、こちらを見ました。


「隠していたのか」


「守っておられたのだと思います」


私は言いました。


「読める者がいない家に返せば、また誰かに持ち出されます。あるいは、読まれずに署名されます」


私は、四十四通に手を置きました。


「二十四通は、当家を守る紙でございました。これが失われれば、不利な条文だけが生きます」


「では、叔父から守っていたのか」


「分かりません」


私は言いました。


「ただ、二年前の冬、書斎に通っていた方は、この四十四通を探して、見つけられませんでした」


私は言いました。


「ヴェルナーさんが持っていたからでございます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。