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第五十四話 愛も救済依存からできている

 エルシアは俺を見た。


 その視線だけで、次に何を言われるか分かった。


 分かりたくなかった。


「レン」


 女神は、俺の名前を呼んだ。


「あなたは、ミオを愛していますか」


 白い間が静かになる。


 ミオが隣で息を止めた。


 カイトが小さく舌打ちする。


 フロッグは黙っている。


 グースも、何も言わない。


 俺はすぐに答えられなかった。


 前なら、答えたかもしれない。


 守りたい。


 大切だ。


 失いたくない。


 それを愛と呼んだかもしれない。


 でも、観測塔で見た。


 十七回の救出。


 救済者満足度。


 対象自己決定感。


 救済錨候補。


 愛という言葉の中に、別のものが混ざっている。


「分からない」


 俺は言った。


 ミオの肩がわずかに揺れる。


 傷つけた。


 でも、ここで綺麗な嘘を言えば、もっと傷つける。


「分からないけど」


 俺は続ける。


「大切だと思っている」


 エルシアは静かに聞いている。


「救いたいと思っている。守りたいとも思う。必要とされたいとも思っている。彼女に見捨てられたくないとも思っている」


 言葉にするたび、自分が汚れていくようだった。


 いや、違う。


 もともと混ざっていたものが、見えるようになっただけだ。


「それから」


 喉が乾く。


「それでも、一緒にいたいと思っている」


 ミオは俺を見ていた。


 泣いてはいない。


 怒ってもいない。


 ただ、聞いている。


 俺が何を混ぜてしまっているのかを。


「それを愛と呼んでいいのか、分からない」


 俺は言った。


「でも、混ざっているから全部偽物だとは思いたくない」


 エルシアの瞳が、少しだけ揺れた。


 視界にログが開く。


中心重力照合:

【救済依存】

関係性感情との混線率:高


注記:

愛情、保護欲、自己肯定欲、喪失恐怖が同時検出されています。


「親切なログですね」


 俺は乾いた声で言った。


「ええ」


 エルシアは否定しない。


「人間の感情は混ざります。だから危険なのです」


「混ざっていたら、管理していいのか」


「混ざっているから、管理が必要なのです」


 まただ。


 この人は、同じ場所に帰ってくる。


 人間は危うい。


 だから守る。


 守るために縛る。


「あなたは今、誠実に見えます」


 エルシアは言った。


「自分の感情の混濁を認めた。とても大切なことです」


「褒められてる気がしない」


「ですが、その状態を保てる人間は少ない」


 白い間に、過去の記録がいくつも浮かぶ。


 自分の依存を認めた転生者。


 最初は慎重だった。


 だが、痛みが増えるとまた役割へ逃げた。


 愛を疑い続けて壊れた者。


 疑うことに疲れて、用意された幸福へ戻った者。


 全部見せられる。


「人は、疑い続けることに耐えられません」


 エルシアは言う。


「あなたは今は認められる。でも、明日も、十年後も、百周後も、その混ざりを見続けられますか」


 答えられなかった。


 それでも。


「見続けられるかは分からない」


 俺は言った。


「でも、見えないようにされるのは違う」


 ミオが隣で、小さく頷いた。


 その頷きだけで、少し立てた。


 エルシアは悲しそうに微笑む。


「あなたたちは、まだ自分の弱さを過小評価しています」


 その言葉は、たぶん正しい。


 でも、正しいから従うわけにはいかなかった。


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