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第四十三話 観測塔への旧道

 観測塔への旧道は、道に見えなかった。


 村の北にある低い丘。


 枯れ草。


 黒い石。


 倒れた祈念柱。


 そこに、細い踏み跡がいくつも伸びている。


 どれが本当の道か分からない。


 いや、分からないように作られている。


「白い石を踏むな、でしたね」


 フロッグが足元を見た。


 道のあちこちに、白い小石が混ざっている。


 自然の石にも見える。


 だが、よく見ると不自然に等間隔だ。


 カイトが一つを拾おうとした。


「触らない方がいい」


 俺が言うと、カイトは手を止める。


「爆発するのか」


「たぶん、もっと嫌なことになります」


 視界に鑑定ログが開く。


対象:白石標

用途:役割反応測定

反応条件:

勇者候補の進路選択

救済対象の不安

追放者の敵意


「本当に嫌な石だ」


 カイトが言った。


「俺を何だと思ってる」


「追放者」


「殴るぞ」


「殴ると反応します」


「余計腹立つな」


 ミオは白石標を避けて歩いていた。


 足はまだ万全ではない。


 俺は手を貸しそうになり、その手を下ろす。


 ミオはそれに気づいた。


 気づいた上で、何も言わなかった。


 道は三つに分かれていた。


 左は、なだらかな坂。


 中央は、白い石が多いが歩きやすい。


 右は、黒い岩場で足場が悪い。


 普通なら中央を選ぶ。


 怪しいくらい歩きやすい。


「中央は罠でしょうね」


 フロッグが言った。


「そうでしょうね」


 だが、右の岩場はミオの足にきつい。


 左は遠回りになり、白鐘網が追いつくかもしれない。


 選択肢が、露骨に嫌な形をしている。


 ミオが中央を見た。


「私がいるから、右を選びにくいんですね」


 図星だった。


「それは」


「言い訳しなくていいです」


 ミオは杖を握り直した。


「私は右を歩けます。でも、遅くなります」


「なら左は?」


「間に合わないかもしれません」


 冷静だった。


 以前なら、俺が判断していただろう。


 今は、彼女が自分の状態を言葉にしている。


 それを聞く。


 そこから考える。


 白い糸が、遠くの空で揺れた。


 追跡が近づいている。


 視界に【役割剥離】の表示が薄く残っていた。


 黒鐘圏の名残。


 完全ではない。


 だが、使えるかもしれない。


「ミオ」


「はい」


「君は今、何をしに行く」


 ミオは少しだけ目を細めた。


 質問の意味を探る顔。


 それから答えた。


「自分の記録を読みに行きます」


 白石標の一つが、わずかに鈍る。


 俺はカイトを見る。


「あなたは」


「あ?」


「何をしに行く」


「俺は」


 カイトは少し考えた。


「追放記録の続きを見に行く。燃やさないために」


 また一つ、白石標が鈍る。


 フロッグが先に言った。


「私は、二度目の外側を見ないために行きます」


「それ、行く理由なんですか」


「私にとっては」


 白石標がさらに鈍る。


 俺は自分に問う。


 俺は何をしに行く。


 ミオを救いに?


 違う。


 ノアを止めに?


 それもあるが、今の中心ではない。


「俺は」


 言葉にする。


「俺が何を繰り返してきたのか、見に行く」


 白石標が一斉に光を失った。


 中央の道が、少しだけ黒く変わる。


 歩きやすい道ではない。


 だが、白い罠でもなくなった。


 視界にログが開く。


【役割剥離】の限定再起動を確認。

対象:観測塔旧道


条件:

同行者全員が、役割ではなく現在目的を宣言。


「全員」


 俺は小さく笑った。


「一人で道を開く仕様じゃないらしい」


「良い傾向です」


 フロッグが言う。


 カイトは肩をすくめた。


「面倒な道だ」


「でも、見返す相手はいませんよ」


「だから面倒なんだよ」


 ミオが先に一歩進んだ。


 中央の道。


 白かった石は黒く沈み、踏んでも何も鳴らない。


 俺は少し後ろを歩く。


 すぐ隣ではない。


 置いていく距離でもない。


 観測塔は、丘の向こうに見えてきた。


 細く、古く、空に刺さるような塔。


 塔というより、世界に開いた傷のようだった。


 入口の前には、文字が浮かんでいる。


観測塔外縁へ到達。

入塔条件:

自己記録の閲覧意思

他者記録への非侵入誓約


 他者記録への非侵入誓約。


 ミオがその文字を見た。


「よかった」


 小さく、彼女は言った。


 その言葉が、痛かった。


 でも、少しだけ救いでもあった。


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