第13話 形を残す手
春になると、珠江口の海は少しだけ明るく見える。
冬の海は灰色だった。 空も水も、薄い布をかぶったように冷え込み、風は人の袖口や首筋を狙って入り込んできた。 浜辺に打ち上げられたゴミの帯も、冬の間はどこか黙り込んでいるように見えたものだ。
けれど、春の海は違う。
朝の光が差し込むのが早くなり、波の上に薄い金色が乗る。 漁港には魚を入れる箱の数が増え、養殖場の白い浮きも、遠くの海でよく目立つようになる。
市場の前には人の活気が戻り、魚箱を積んだ小さな車が、朝から何度も港の道を往復する。
春は、魚が戻ってくる季節だった。
同時に――見たくないものも戻ってくる季節だった。
李海生は、朝の浜辺にしゃがみ込んだ。
少し離れた場所に、老犬の老白が座っている。 春になってから、老白の足取りは少しよくなった。 右後ろ足はまだ弱いけれど、冬のように寒さで震えることは少なくなった。
海生が浜へ向かうと、老白は当然のようについて来る。 以前は遠慮して海生の少し後ろを歩いていたが、今は横を並んで歩く。
近すぎず、離れすぎず。 海生が立ち止まると老白も止まり、海生がゴミの帯へ近づくと、老白は少し離れて待つ。 それを、いつの間にか覚えていた。
「そこにいて」
海生が言うと、老白は耳をピクリと動かした。
「今日は春だけど、缶のふちは春になっても優しくならないから」
老白は、すべて分かっているような顔をした。
海生は、大きなタイヤと白いポリ容器の間から、つぶれた空き缶を拾い上げた。 春の潮は、冬よりもたくさんのものを運んでくる。
ペットボトル。 発泡スチロール。 白いポリ容器。 切れたロープ。 金属の容器。
浜全体がきれいになったわけではない。 ただ、光が明るくなった分だけ、汚れもはっきりと見えてしまうのだ。
海生はポケットからノートを開いた。
『春。朝。 満潮線沿い、ゴミの帯継続。空き缶多数。金属容器多数。 黒い粒、冬より乾いて散りやすい。 養殖場の浮き、春の出荷増加か』
そこまで書いて、海の方を見た。 養殖場の白い浮きが、朝日にきれいに並んでいる。
あの向こうから、魚が来る。 加工場へ来る。 そして、形のおかしい魚はすり身へと回されるのだ。
海生は、首から下げた小さな袋にノートをしまった。
老白が近づいてきて、海生の手のにおいを嗅いだ。
「まだ魚じゃないよ。缶のにおい」
すると老白は、海生の指先を軽くなめた。 前は、海生が何かを拾っていても遠くから見ているだけだったのに、今は作業が終わるたびにそばへ来る。
まるで、海生の手が切れていないか確かめているようだった。
「大丈夫」
海生が言うと、老白は安心したように、しっぽを一度だけ大きく振った。
学校では、春になっても教室の空気は変わらなかった。
劉偉たちは、相変わらず海生をからかってきた。 テレビ博士、ゴミ博士、魚箱博士。 あだ名は日によって変わる。
一方で、黄佳怡と周凱はもっと静かだった。 けれど、その静かな悪意の方が、うるさい笑い声よりも心に深く残ることがある。
海生が理科の小テストで満点を取った日、黄佳怡はノートをパタンと閉じながら、冷ややかに言った。
「浜でゴミを見てるだけで賞が取れるなら、理科って楽な科目だね」
周凱がそれに合わせて笑う。
「次は何を観察するんだ? 魚の顔か?」
海生は何も答えなかった。
魚の顔。 彼らは冗談のつもりだろう。 だが、海生は本当に魚の顔を見ているのだ。
口がずれているか。 目の位置がおかしくないか。 腹の形がいびつではないか。 ヒレが縮れていないか。
他人の意地悪な冗談が、自分の隠された記録にピタリと触れてしまうことがある。
その日の放課後、海生は魚加工場へ向かった。
春になって、呼ばれる回数は少し増えていた。 冬より魚が増える。天然の魚も、養殖場からの箱も増える。 魚が増えれば、封筒に入れてもらえるお金も少し増える。
妹の小雨へ送るお金。 おじいさんの作業用手袋。 老白の餌。
ありがたいはずだった。 だが、加工場へ向かう足取りはちっとも軽くなかった。 魚が増えれば増えるほど、見えるものも増えてしまうからだ。
加工場には、すでにたくさんの箱が並んでいた。 秋の最盛期ほどではないけれど、冬よりは明らかに多い。
王主任は、白い前掛けを膨らんだ腹の上で結び直しながら声を張り上げた。
「春は忙しくなるぞ。手を止めるな!」
「はい」
「今日は養殖場の箱が多い。形の悪いのは、いつもの通りに処理しろ」
「すり身用ですか」
「分かっているなら聞くな」
海生は念入りに手を洗い、薄いゴム手袋をつけた。 作業台の横には、十二個の箱が並んでいた。
荷札を確認する。 天然四、養殖八。
海生は頭の中でその並びを数えた。 (天、養、養、天、養、養、養、天、養、養、天、養)
箱の数だけ見ても、圧倒的に養殖の割合が多い。 それ自体は不思議なことではないのかもしれない。 春の出荷時期、市場からの注文、加工場の都合。理由はいくらでもある。
けれど、海生が気にしているのは、箱の数だけではなかった。
一箱目、天然。 網でこすれたものや、尾が欠けたもの、腹が破れたものなど、傷んだ魚はある。 だが、体そのものが生まれたときから曲がっているような魚は少ない。 明らかな変形は、一匹。
二箱目、養殖。 背骨の曲がった魚、二。 口のずれた魚、一。 ヒレの縮れた魚、一。 腹の膨らみがおかしい魚、一。 合計、五匹。
海生は頭の中でカウントを続けた。
三箱目(養殖)は、四匹。 四箱目(天然)は、一匹。 五箱目(養殖)は、六匹。 六箱目(養殖)は、五匹。 七箱目(養殖)は、七匹。
海生の手がピタリと止まりかけた。
七匹。 一箱の中に、明らかに形のおかしい魚が七匹も入っている。
もちろん、たまたま魚の数が多い箱だったのかもしれない。 種類が違うのかもしれない。自分の見落としの可能性もある。 だが、頭の中の数字がどんどん重くなっていく。
「李海生!」
王主任の鋭い声が飛んできた。
「また魚と相談してるのか!」
「いえ」
「曲がっているやつは、そっちに溜めるな。すぐに頭を落とせ!」
「はい」
「見た目の悪い魚を作業台に並べるんじゃない。客が来たときに困るだろう」
「客が来るんですか?」
「来ることもある。今日は質問が多いな!」
海生は口を閉じた。 王主任は、一匹の曲がった魚をつかみ上げると、海生の目の前にドサリと置いた。
「こういうのはな、顔から消すんだ。口がずれているのも同じ。腹がおかしいのは内臓を出せばいいし、ヒレは切り落とせ。すり身にしてしまえば、誰にも分かりゃしないんだから」
すり身になれば分からない。
海生は、これまでに何度も聞いたその言葉を、また頭の中に深く刻みつけた。
形を消せば、問題も消える。 そういう仕事を、いま自分の手がしている。
海生は淡々と魚の頭を落とした。 腹を開き、内臓を取り出し、身を削ぐ。
きれいな白い身が桶に入っていく。 さっきまで曲がっていたという事実が、みるみる消えていく。
八箱目(天然)は、二匹。 九箱目(養殖)は、五匹。 十箱目(養殖)は、四匹。 十一箱目(天然)は、一匹。 十二箱目(養殖)は、六匹。
すべての作業が終わるころ、海生の頭は数字でパンパンになっていた。
天然四箱の変形数は、1、1、2、1。 養殖八箱の変形数は、5、4、6、5、7、5、4、6。
データとしては不完全だ。魚の総数も種類も正確には違うのだから。
海生は急いで加工場の裏手へ回った。 壁の陰に隠れ、ポケットからノートを取り出す。 忘れる前に、殴り書きした。
『春。加工場。 天然四箱:変形 1、1、2、1 養殖八箱:変形 5、4、6、5、7、5、4、6 ※魚数未確認。種類違いあり。箱の大きさ不ぞろい。証拠ではない。 ただし、冬より養殖箱の割合が増加。変形魚も明らかに目立つ』
そこまで書いて、鉛筆を止めた。
証拠ではないという言葉。 この言葉は、何度書いても必要だった。 必要だけれど、時々、自分が現実から逃げるための言い訳のようにも思えてしまう。
証拠じゃないんだから、黙っていろ。 そう自分に言い聞かせているような気がして。
「李海生?」
突然、後ろから声をかけられ、海生はビクッとしてノートを閉じた。
そこにいたのは、クラスメイトの陳明月だった。 学校の制服ではなく、薄手の春物の上着を着て、小さな紙袋を手の中で大事そうに持っている。 髪はいつもより少しゆるく結ばれていた。
「どうしてここに?」
海生が尋ねると、明月は少し気まずそうに、はにかんだ。
「お父さんに、お弁当を届けに来たの。今日はお父さん、出荷の話とか検品のことで、この加工場に来てるから」
明月は、少し言いにくそうに視線を落とした。
「うち、養殖場をやってるから」
養殖場。 その言葉が、海生の頭の中で、さっき記録したばかりの数字とガチリとつながった。
養殖八箱。変形、5、4、6、5、7、5、4、6。
海生は思わず、ノートを隠すように手で強く押さえた。 明月の視線が、その手に注がれる。
「何を書いてたの?」
「記録」
「また、海のゴミのこと?」
海生は少し躊躇してから答えた。 「魚の、記録」
明月の表情が、かすかに強張った。
「魚って、この加工場の?」
「うん」
「うちのお父さんの魚も?」
海生は答えられなかった。 黙り込むことが、肯定になってしまう。
明月は、持っていた紙袋の取っ手をきゅっと握り締めた。
「うちの魚、何か変だった?」
「まだ、分からない」
「分からないなら、変なんて言わないでよ」
「言ってないよ」
「でも、書いてるじゃない」
海生は手の中のノートを見つめた。 確かに書いている。言葉には出さなくても、紙にはっきりと残している。
「僕は、見たものをただ書いているだけだ」
「そんなの、見方によって変わるでしょ!」
明月の声は、海生を責めているようでもあり、何かをひどく怖がっているようでもあった。
海生は、目の前の少女を見た。 学校の校舎の裏で、自分に卵焼きを分けてくれた優しい明月。 「少し困るくらい、私にもさせて」と笑ってくれた明月。
その明月の背後にいま、養殖場という巨大な現実がのしかかっている。 海生は、自分が何を言えばいいのか分からなくなった。
「僕は、まだ何も決めてない」
「じゃあ、お父さんには言わないで」
「言わないよ」
「先生にも?」
「先生には、相談するかもしれない」
明月はぎゅっと唇を噛んだ。
「相談したら、噂が広がるかもしれないじゃない」
「広がったら、困るの?」
「困るよ!」
明月は即座に言い返した。
「魚が売れなくなっちゃう。お父さんが困る。養殖場で働いている人たちだって困るの!」
海生は一瞬の沈黙を置いて、問いかけた。 「魚は?」
「え?」
「魚は、困らないの?」
明月は絶句し、言葉を失った。
海生は、自分の声がトゲをはらんで強くなってしまったことに気づいた。 言いすぎた、と思った。けれど、もう口から出てしまった言葉は戻せない。
明月の目に涙は浮かんでいない。怒っているわけでもない。 ただ、どうしてそんなことを言われるのか分からず、激しく戸惑っていた。
「李海生って、時々すごくひどいことを言うね」
明月はぽつりと、絞り出すように言った。
「ごめん」
「ううん」
明月は首を振った。
「ひどいけど、嘘じゃないときがあるから、困るの」
彼女はそれだけ言うと、加工場の奥へと走り去ってしまった。
海生は壁際に一人、取り残された。 春の夕方の風が吹き抜け、魚の生臭さを少しだけ薄めてくれる。
けれど、胸の中の重苦しさは少しも薄まらなかった。
明月は優しい。でも、養殖場の娘なのだ。 海生に卵焼きを分けてくれたその手は、養殖場の魚によって支えられている家の手でもあった。
それは明月が悪いわけでは決してない。 誰も悪くないからこそ、余計に苦しかった。
家へ帰ると、老白が扉の前で待っていた。
春になってから、老白は夕方に帰ってくる海生の足音を覚えたらしい。 扉を開ける前に、内側で爪が床をトントンと小さく叩く音が聞こえる。今日もそうだった。
扉を開けると、老白が一歩前に出てきて、海生の手のにおいを執拗に嗅いだ。
魚のにおい。すり身にされる魚のにおい。加工場の冷たい水のにおい。
けれど老白は嫌がらなかった。 鼻をそらすこともなく、ただ海生の手のひらに、温かい鼻先をぐっと押しつけてくる。
「臭いでしょ」
海生が言うと、老白は答える代わりに、海生の指先を優しくなめた。
海生の喉の奥が、熱くつまった。
学校では魚臭いとからかわれ、加工場では手が遅いと怒られ、明月には書かないでほしいという悲しい目をされた。 だが、老白だけは、この魚臭い手を絶対に避けなかった。
老白は、海生の手が今日どんな作業をしてきたかを知らない。 それでも、この手を無条件に受け入れてくれる。
海生はその場にしゃがみ込み、老白の首に両腕を回して抱きしめた。
以前なら、急に抱きつくと少し身を引いていた老白が、今は体を硬くすることなく、海生の胸に全体重を預けてくる。
軽い。まだ、本当に軽い。 でも、そこには確かな命の重みがあった。 海生を信じて身を寄せてくる、あたたかい重さだった。
「老白」
海生は小さく呟いた。
「僕、嫌なことを書いてるのかな。もう、書かない方がいいのかな」
老白は耳を動かし、海生の手をもう一度、ペロリとなめた。 答えではない。けれど、逃げるなと言われたような気がした。
おじいさんの李守田は、机の前で古い手袋を縫い直していた。
「戻ったか」
「うん」
「顔が暗いな」
「魚を見てたから」
「魚は明るい生き物じゃないからな」
「明月の家、養殖場だったんだ」
おじいさんの、針を動かす手が止まった。
「そうか」
「知らなかった」
「知らないことは、いつも後からやってくるものだ」
「今日、養殖場の箱、形のおかしい魚がすごく多かった。ノートに記録したよ」
「よし」
「でも、明月が困るんだ。明月は何も悪くないのに」
「そうだな」
「でも、魚だって悪くない」
おじいさんは針を机に置くと、真っ直ぐに海生を見つめた。
「一番難しいところに来たな、海生」
「何が?」
「悪人が誰もいないのに、悪いことが起きるところだ」
海生は黙って聞いていた。
「明月はお前に卵焼きをくれた。だから優しい。それは本当だ。正式に言えば、明月は養殖場の娘だ。だから困る。それも本当だ。どちらも本当なんだよ」
「両方」
「そうだ。世の中、片方だけが正しければ楽なのだがな」
海生は足元にいる老白の背中をなだめるように撫でた。 白い毛が、指の間をさらさらと通り抜けていく。
「じゃあ、僕はどうすればいいの?」
「記録するんだ」
おじいさんは静かに、けれど毅然と言った。
「裁くのは後でいい。まずお前が見たものを、自分の都合で曲げずに、そのままそこに置くんだ」
「明月が傷ついても?」
「曲げられた記録はな、後になって、もっと多くの人を傷つけることになる」
海生は、今日加工場で処理した魚たちを思い出した。
グニャリと曲がった魚。 ねじ曲げられた記録。 二つのイメージが頭の中で重なる。
「でも、僕の記録だって間違っているかもしれないよ」
「だから、間違っているかもしれないとそのまま書くんだ」
おじいさんは再び手袋を持ち直した。
「それは弱さではない。逃げ道でもない。ただの正直さだ」
海生は、深くうなずいた。
夜、机に向かった。
老白は机の下に入り込み、海生の足にぴったりと体をくっつけて眠っている。 少し前なら、こんなに近くで無防備に眠ることはなかった。
海生はノートを開き、今日の記録の続きを書き始めた。
『春。加工場。 天然四箱:変形 1、1、2、1 養殖八箱:変形 5、4、6、5、7、5、4、6 魚数未確認。種類違いあり。箱の大きさ不ぞろい。証拠ではない。 ――傾向の可能性。
王主任の言葉:見た目の問題を、見た目で残すな。すり身用。 陳明月の家は養殖場。明月は、お父さんが困る、と言う。 僕、激して、魚は困らないの、と言う。言いすぎか。
悪人がいないのに、悪いことが起きることがある。 記録は曲げない。ただし、断定もしない』
そこまで書いて、海生はノートの余白に、今日見た魚の絵を描いてみた。
背骨の曲がった魚。 口のずれた魚。 ヒレの縮れた魚。
決して上手な絵ではないけれど、丁寧に描いた。 すり身になって消えてしまう前の、本当の形をここに残すために。
そのとき、老白がふいにガバッと顔を上げた。
外で、何かが擦れるようなかすかな音がした。 ただの風のいたずらか、誰かが路地を通り過ぎただけかもしれない。 けれど老白は、じっと鋭い目付きで扉の方を凝視している。
それからゆっくりと立ち上がり、足を引きずりながら扉のすぐ傍まで移動した。
海生はそれを見つめた。
「どうしたの、老白」
老白は低く、短くフゥと息を吐いた。 決して吠えはしない。だが、いつもの老白とは明らかに違っていた。
誰かが、近くにいる。
そう警戒しているようだった。
しばらくすると、気配は遠ざかっていった。 それでも老白は、しばらく扉の前から動かなかった。
海生はその白い背中を見つめながら、ハッとした。
この老犬は、もうただ守られるのを待つだけの存在ではないのだ。 海生がこうしてノートを書いている間、ずっと扉を監視している。
海生の記録が誰かに見られないように。 海生自身が、誰かに邪魔されないように。
考えすぎかもしれない。 けれど、老白は頑なに扉の前を離れようとしなかった。
海生はノートの最後に書き加えた。
『老白、扉の前に立つ。まだ吠えない。でも、見ている』
窓の隙間から、冷たい春の夜風が入り込んできた。
ここから遠い養殖場の灯りは見えない。 けれど、あの暗い海の上には、いまも無数の白い浮きが並んでいる。
魚はそこで育てられ、やがて海生の働く加工場へと運ばれてくる。 そして形の悪いものは、すべてすり身になる。
見た目の問題を、見た目で残すな。
王主任の言葉が、再び耳の奥で蘇る。
海生は魚の絵の横に、小さな文字で、自分自身へ向けた言葉をそっと書き添えた。
――形を消す仕事をしている手で、形を残す記録を書く。
その手は、いまもまだ、頑固なほど魚のにおいが染みついていた。
けれど、机の下に戻ってきた老白は、その手をやっぱり嫌わずに、もう一度だけ優しくなめてくれた。
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