第19章 箱の中の声
――コン、コン。
暗闇に響いた微かな音は、確かに人の手が板を叩く音だった。
翔子が蒼ざめた顔で悟にすがる。
「……誰か、生きてるの?」
悟は喉が渇くのを感じながら頷いた。
誠が素早く足音を殺し、箱のひとつに近づく。
小窓を覗き込むと、布にくるまれた影がかすかに身じろぎしていた。
「……中に、人がいる。まだ呼吸してる」
光輝が押し殺した声で言う。
「安楽死は……失敗したのか? それとも……」
答えはなかった。ただ事実として、その人物は確かに生きていた。
「開けましょう」翔子が震える声で訴えた。
「ここで見捨てたら……私たちも同じになる」
悟も頷き、誠の肩に手を置いた。
「やるしかない」
誠は一瞬ためらったが、鍵穴に手をかけた。幸い、単純なラッチで施錠されていただけだった。
静かに開けると、冷気とともに呻き声が漏れた。
中には、二十代前半と思しき女性が横たわっていた。顔はやつれていたが、確かに目を開けてこちらを見ていた。
「……たすけ、て……」
そのかすかな声に、翔子は涙をこぼした。
弘子が慌てて上着を脱ぎ、女性の体を覆った。
「ひどい……こんな状態で、生きたまま閉じ込めて……」
正弘が低く唸る。
「搬送とはつまり……こういうことか」
光輝は女性の顔を覗き込み、息を呑んだ。
「誠さん、この子……依頼人の娘さんじゃないのか?」
誠は一瞬固まり、そして小さく頷いた。
「……間違いない。写真で見た。彼女だ」
全員が息を詰めた。
彼らがここまで探してきた真実の一端――「失踪した娘」は、今まさに目の前にいたのだ。
だが安堵する間もなく、地下通路の奥から再び機械音が響いた。
――ゴウン、ゴウン。
今度は複数の足音が混じっている。
翔子が青ざめ、悟に囁いた。
「……来る。どうするの?」
誠は女性の身体を抱え上げ、決然とした目で全員を見渡した。
「隠すしかない。だが次はもう後戻りできない。俺たちは“敵”として見なされる」
女性の荒い息遣いが、暗闇に重く響いた。
それは恐怖で震える六人の心を、さらに強く結びつけていった。




