第18章 監視者の影
機械音は次第に近づき、通路の奥から青白い光が揺れていた。
――誰かが、懐中電灯を手にしてこちらへ来る。
悟の心臓は鼓動を早め、翔子の手が強く握り返された。
光輝は冷静さを装いつつ、背中に冷たい汗を感じていた。
「……隠れる場所を探せ」
誠が小声で指示し、全員は慌てて格納室の陰へ身を寄せた。
足音が近づく。硬い床を踏む規則的な音。
やがて姿を現したのは、職員用の白衣を着た男だった。川添ではない。見知らぬ人物だ。
彼は台車を押し、格納室の前で立ち止まった。
「……三名、確認。記録通り」
男は無機質な声で呟き、隔離箱に手をかける。カートに移すたび、金属の軋む音が響いた。
その作業は淡々としていて、まるで物品の出荷作業のようだった。
翔子が口を塞ぎ、涙をこぼした。
――あの白布の下には、人がいる。自分たちと同じ“志願者”が。
誠はノートを握りしめ、冷静に観察していた。
男が台車を押して通り過ぎる瞬間、彼の背中から微かな囁きが漏れた。
「……すぐに、次が来る」
悟の背筋に寒気が走った。
「次……って、俺たちのことか」
光輝は低く囁き返した。
「そうだ。俺たちも近いうちに“搬送”される」
男の足音が遠ざかり、やがて地下の扉が閉まる音が響いた。
しばらく誰も声を出さなかった。
弘子が震える声で言った。
「……私たち、見つかったら終わりよね」
正弘は唇を噛み、妻の肩を抱いた。
「だが黙っていれば、いずれ同じ箱に入れられる。逃げるしかない」
誠が皆を見渡した。
「選択の時だ。このまま施設に従い“処置”を受けるか、それとも――真実を暴き、外へ出るか」
悟は強く頷いた。
「俺はもう決めた。死ぬために来たけど……こんな死に方は絶対に嫌だ」
翔子も震える声で続けた。
「私も……ここで消えるくらいなら、まだ生きたい」
光輝、塩谷夫妻も次々に頷く。
誠は深く息を吸い込み、低い声で言った。
「ならば、ここから先は本物の戦いになる。俺が導く。だが覚悟してくれ」
そのとき、格納室の奥から微かな音がした。
――コン、コン。
隔離箱の一つから、誰かが内側を叩いている。
六人は息を呑み、暗闇の中で互いに顔を見合わせた。




