奇談散歩【66】ちょこっと夜行さん と お馬さんあれこれ ②
古今東西、人に身近な動物であった馬、
馬は非常に多くの神話・民話で死と性(生)に結び付けられている動物で、キリスト教の「黙示録」は馬を死の象徴として語り、「黙示録の四騎士」は破滅の担い手として馬に乗って現れます。
「ヨハネの黙示録」の “ 四騎士 ” は、黙示録に記される「馬に乗る者」(英語では「Horseman」)の意訳で、原典には「騎士」に相当する単語はありません。キリストが解く七つの封印の内、始めの四つの封印が解かれた時に出現し、四騎士はそれぞれが、地上の四分の一の支配、そして剣と飢饉と病・獣により、地上の人間を滅する権威を与えられているとされています。
そして、『ヨハネの黙示録』第6章第8節に記される、第四の封印が解かれた時に現れる騎士は黄泉を従え「蒼ざめた馬」に乗った「死」で、地上の人間を死に至らしめる役目を担っているといいます。
性的な事象と結びつけられているものとしては、
中世フランスでは神父の情婦は死後「黒い雌馬」になると信じられており、また、南米ブラジルには、神父の内縁となった女性は神罰で「首なしラバ」に変えられるという伝承があります。※1 カール・グスタフ・ユングは患者の悪夢に性的な意味を伴って現れる「馬」に注目し、≪ 夢を見ている人を背から投げ出し腹部を後脚で蹴っている「馬」≫ は強姦を表していることが多い、と述べています。
そして、東北地方の伝承、異類婚姻譚の ※2「おしらさま」も性的な側面が強く感じられる民話です。
※1 カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875年7月26日 - 1961年6月6日)は、スイスの精神科医・心理学者。ブロイラーに師事し深層心理について研究、分析心理学(ユング心理学)を創始した。
※2 ある娘が家の飼い馬と仲良くなり、ついには夫婦となった。それを知った父親は怒りのあまり、馬を木に吊り下げ、その首を刎ねた。嘆き悲しんだ娘が馬の首に縋りつくと、首は娘を乗せて天高く昇っていったという。「おしらさま」は、後に養蚕、農業、馬の神として篤く信仰された。柳田國男の『遠野物語』で知られる。
そして、馬は宇宙や神と同一視され多くの神話にその姿を現します。
ヒンドゥー教のヴィシュヌ神の十番目のアヴァターラ( 化 身 ) である白馬カルキ(Kalki, कल्कि)は、ヴィシュヌ神 最後のアヴァターラで、白い駿馬に跨った英雄、あるいは白い馬頭の巨人の姿で表されます。
その名は「永遠」「時間」あるいは「汚物を破壊するもの」を意味し、はるか未来、聖典の権威が失われる暗黒時代に出現し、宇宙に跋扈するあらゆる邪悪を滅して善を打ち立て正信を救い、新たな黄金時代の到来を促す救世主といわれています。
そして、六観音の一尊、馬頭観音(梵 : हयग्रीव、hayagrīva、ハヤグリーヴァ)は、仏教における信仰対象である菩薩。観音菩薩の変化身であり、観音菩薩の忿怒を表し、馬頭人身あるいは人面馬冠の姿をとり、馬は魔を降す力を表しているとされ、他の観音が柔和な表情で表されるのとは対照的に、馬頭観音は怒りの形相凄まじい、憤怒相で表されます。
このため、密教では「馬頭明王」と呼ばれて仏の五部で蓮華部の ※3教令輪身であり、すべての観音の憤怒身ともされ、柔和相の観音の菩薩部ではなく、憤怒相の守護尊「馬頭明王」として明王部に分類されることもあります。「馬頭明王」は八大明王の一つとされ、一般には牛馬の徐疫の守護本尊、怨敵調伏の本尊として特に江戸時代に広く信仰を集めました。
馬頭観音の梵名のハヤグリーヴァは「馬の首」を意味し、これはヒンドゥー教では最高神ヴィシュヌの異名でもあり、馬頭観音の成立におけるその影響が指摘されています。 他にも「馬頭明王」、「大持力明王」「師子無畏観音」など様々に呼び習わされ、衆生の無智・煩悩を取り除いて、諸悪を滅する菩薩といいます。
※3教令輪身とは密教において如来が、救い難い衆生の救済に忿怒の形相で現れる明王の姿を指します。
日本では七福神の一柱として親しまれる弁才天(弁財天)様は、もともとはインド神話の河川神でブラーフマナ神話では言葉の神様バーチュと同一視される学問芸術の神サラスヴァティー
とか、
全国に約600社の金毘羅神社が建立され、特に漁業や船舶に関係する人々から厚く崇敬されている「こんぴらさん」ことクンビーラ神(Kumbhīra)も、元々はインドのガンジス川の鰐を神格化した水神で、ヒンドゥー教の鰐神が仏教に取り入れられ、薬師如来の十二神将の筆頭「宮比羅大将」として位置づけられたことから、
とか、
大黒の「だいこく」が大国に通じるため、古くから神道の神である大国主命と混同され、習合してくっついちゃったシヴァ神の化身であるマハーカーラ様 ( 梵 : Mahākāl 偉大なる暗黒 )
とか、
遠いところから来訪している神様は枚挙に遑が有りませんが ……
ヴィシュヌ神の最後の化身として今世の終末に顕現する「白馬カルキ」というイメージは来訪神中、屈指の中二的カッコよさですよねぇ、
西洋にも東洋にも「終末に顕現する “ 馬 ”」の伝承があったり、
興味はつきませんね ――
「終末に顕現する “ 馬 ”」のイメージを強く感じる作品も名作が多く、
花郁悠紀子先生によるミステリー『カルキの来る日』や、佐藤 史生の『馬祀祭 ( アヴシュメーダ )』
そして、
諸星大二郎先生の伝説的、伝奇漫画『暗黒神話』の結末!




