第24話 奇談散歩【81】なすびばばあ
『なすび婆』
茄子婆さんともよばれる妖婆で、比叡山七不思議の一つに数えられている。
齢七十手前の茄子の様な紫の顔色をした気品のある老婆で、その正体は八百年前、宮中に仕えていた位の高い女官であったという。
ある夜、※南光坊の門を叩く音がしたので、小坊主が出ると、そこには異形の物ノ怪が ――
驚いた小坊主は卒倒し、その場に倒れ伏したが、その物ノ怪が何事かを唱えると息を吹き返した。小坊主が物ノ怪と思ったのは、なすび色の顔をした気品がある老婆で、老婆に声を掛けようとした小坊主の目の前で煙の如く消え失せた。
さて、昨夜の老婆は如何なる人物であるのか、調べたところ、ある女官ではないかと言うものが現れた。
八百年前、宮中に仕えていた位の高い女官。
この女官は生肉が大好物で、生前、人目を避けては山中の動物を殺めて食べていた為、死後 魔界に堕ちて妖しと化生した。
さりながら、この女官は晩年、自らの悪行を深く悔やみ、御仏や菩薩の加護を祈り続けた為、身は魔界に落ちても、心は比叡山に住むことが許されたと言われている。
時折、比叡山の堂房などに現れて、人を驚かすことがあるが、驚かすだけでこれといった悪事をする訳でもない。
むしろ、比叡山に何か大きな凶事が起こる時に知らせてくれると伝わり、今から約四百年前、信長の比叡山焼き討ちの際には大講堂前の鐘楼堂に現れ、鐘楼を力いっぱい打ち鳴らして火の手が迫ってきている事を僧侶たちに知らせたという。
※「南光坊」とはいわゆる坊舎・僧房、僧侶の住む建物。
かつて「南光坊 ( 坊 舎 )」が有った場所は延暦寺の東塔エリアで、今は第三駐車場の北隅に「南光坊址」と記された石碑が立っています。
齢七十手前だと、今の感覚だと「ばばあ」呼ばわりは叱られそうですが ……
前回の、名前とは裏腹に怖かった「そうめんばばあ」とは違い、驚かすだけで人に害はなさず、むしろ「凶兆」を知らせてくれる善性の側面も有ったり、
比叡山という出現場所にちなんで「御仏に祈って罪を悔い改めたので、心は魔性にならなかった」という仏教説話的な性質のある怪異譚ですね。
昔々は肉食が罪とされていたけれども、
お肉は長寿に良い御食事なので、生産者さんに感謝して美味しくいただきたいと思います。ちゃんと火を通して、生食ダメゼッタイ!




