金魚の芸者
落語「金魚の芸者」は、魚屋に助けられた金魚が芸者に化生して恩返しに現れる、人情噺の「報恩譚」、明治26年(1893年)、初代三遊亭円遊が「錦魚のおめみえ」として創作した新作落語です。別題「金魚芸者」「金魚のお目見得」など、
【 金魚の芸者・あらすじ 】
魚屋の魚勝( あるいは六左衛門 )は、通りかかった道端の水たまりでピチピチ跳ねていた金魚を助けて家に持ち帰り、「更紗の丸っ子」と名付けて、庭の池で育てていました。
弱っていた金魚は、大きく美しく成長し、ある夜、魚勝の夢枕に芸者姿で現れ、「命を救って頂きありがとうございます、就いては … 魚勝さんに恩返しするために芸者になろうと思います」と告げます。翌日、魚勝の前に麗しい芸者が現れ、「池の金魚でございます。どうぞよろしゅう …」と名乗ります。
ふと見る庭の池に金魚はいません。
魚勝は柳橋の置き屋『吾妻家』や『吉田屋』の旦那に芸者となった金魚を紹介しに行き、旦那に好物を聞かれた「更紗の丸っ子」は「お麩とボウフラ」と答え、魚勝が慌てて「お豆腐と天ぷら」とフォロー。
こうして、元金魚の芸者は帯留の金魚から「金魚さん」呼ばれて、あちこちの御座敷から声がかかるようになりました。御座敷では、酒を飲むと真っ赤になり、“シャチホコ立ち”など、金魚らしい特技を披露して売れっ子になります。
三味線は猫の皮なので弾けないものの、新内の「蘭蝶」を歌い、旦那衆に「いい声( 鯉 )だね」と褒められます。すると金魚さん「いいえ、金魚でございます」と、洒落でオチを落します 。
金魚は中国原産で、突然変異の赤い鮒が起源とされてます。
日本には室町時代初期(16世紀初頭)、大坂・堺に伝わり、(※『金魚養玩草』には文亀2年(1502年)に入ってきたと記される。) 当初は高価で、大名や富裕層の贅沢な趣味として飼育されていました。
江戸時代中期になると、藩士が副業として金魚養殖を始め、価格の低下とともに庶民にも普及。文化文政時代(1804~1830年)には江戸の金魚ブームがピークを迎え、金魚売りや金魚すくいが江戸の夏の風物詩として定着しました
※ 寛延元年(1748年)には日本初の金魚飼育専門書『金魚養玩草』が出版され、品種や飼育法が広く知られるようになり、養殖技術も発展しました。
こうして、江戸庶民に愛された金魚は浮世絵や物語にも多く登場するようになり、喜多川歌麿の美人画や井原西鶴の作品にも描かれました。花柳界では金魚の華やかさが「粋」の象徴とされていたようで、この「金魚の芸者」もその様な背景から創作された落語ですね。
そんでもって ――
意外なことに、東京は江戸時代から金魚の一大産地でした。
しかし、都市開発が進み、養殖業者の廃業、周辺の埼玉や茨城などへの移転が相次ぎ、今では卸問屋も激減しています。
かつての文京区本郷の周辺には川が流れ、約2600平方メートルの大池もあり、この池を養魚場にして金魚問屋を営むようになった「金魚問屋・金魚坂」(別名:吉田晴亮商店 )がありました。
現在の記事によると生体販売は終了されている様子ですが、「カフェ金魚坂」として現在も営業中。金魚坂は東京大学本郷キャンパスの前を走る大通りを渡り、坂を下る途中にあり、七代目社長・吉田智子氏によれば、「東京大学の敷地は、当時は加賀藩のお屋敷でした。初代はそこに金魚を納めていたんです。観賞用のほかに、殿様に出す食事の毒見用にも使われていたと聞いています」とのこと、
住所:〒113-0033 文京区本郷5丁目2−5 ( 03-3815-7088 )
アクセス;丸の内線・大江戸線本郷三丁目駅徒歩7分
営業時間:平日11:30-21:30 (L.O/21:00) 土日祝11:30-20:00 (L.O/19:30)
月曜・第3火曜休 (祝日の場合は営業/翌日振替休日)
年末年始休み12/30-1/4
さて ――
この噺も含めて、古今東西の「報恩譚」、
「きれいな女性に化けて」恩返しの話は民話・昔話に数多くあるワケで、
鶴女房をはじめとして狐狸、蛇、亀、河童 … 多くの生き物や妖怪が恩返しに美しい女性になって現れる、多くは「異類婚姻譚」、恩返しに女房になってくれる報恩譚で、最後は「見るなの禁」が破られ、正体が露顕して夫・子供の元から去っていく、悲しい結末が多いんですが ……
この「金魚の恩返し」は最初から正体は判明しているし、カラッと明るい感じの噺で、嫁いでくるんじゃなくて働いて恩を返します!という「金魚さん」もキュートで良いキャラクターです。
意外と、この辺りが「※おんなドラえもん」の源流だったり?
≪※ さえない男性主人公の前に出現して主人公のもとに居候し、超能力・魔法など超常能力を使って助けたり、場合によってはトラブルを呼び込んだりして平穏な日常を引っ掻き回す女性キャラクターの異名。作中での立ち位置が「ドラえもん」に似ていることから呼称される ≫
SF作家・小松左京先生の短編にも、
「高級女性アンドロイドを懸賞で当てた冴えない男が、そのアンドロイドに養ってもらうようになる。高級アンドロイドは、すぐに銀座のお店でナンバーワンホステスになり、めでたし めでたし…」
てな話があったのを思いだしました。
どうか「金魚さん」の御座敷に猫さまが乱入しませんように ……




