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奇談散歩【76】小幡小平次

小幡こはだ 小平次こへいじは、江戸時代の伝奇小説や歌舞伎の怪談物に登場する歌舞伎役者。幽霊の役で名をあげた後に殺害され、自分を殺した者のもとへ幽霊となって舞い戻ったという。創作上の人物だが、モデルとなった役者が実在したことが知られている。Wikipediaより≫


【 小幡小平次、あらすじ 】

 時は宝永元年二月、

 市村座の舞台の上で「生島半六」という役者が「市川団十郎」を斬殺する事件が起きて、下手人として捕縛された半六には討ち首の沙汰が下る。

 そして、半六が刑死になってからというもの、妻の「おちか」と幼い息子の「半之助」は、訪れるものも無い貧しい暮らしぶりとなったが、後家のおちかに思いを寄せて、鳴り物師の「太九郎たくろう」と役者の「小幡小平次」は、おちかのもとに足しげく通った。程無く、おちかは太九郎、小平次の両人と通じるようになる。

しかし、おちかはその事を伏せて、実入りのいい小平次と所帯を持ち夫婦となった。それを不満に思う太九郎は、おちかに詰め寄ったが、おちかは「生活が苦しいから仕方がなかった」と言い訳をして気のあるそぶりを見せ、太九郎との密通を止める気配は無く、このことを、知らぬは小平次ばかり ―――

 

さて、小平次が所帯を持った後、団十郎の二代目が「小平次と同じ舞台には立てない」と言いだした。どうやら団十郎は、小平次が父の仇の元女房と所帯を持つことを快く思っていない様子。小平次は他の芝居小屋からも出演を断られ困窮し、仕方なく売れない役者連中と一座を組んで、地方で旅芝居の興行を打つために江戸を離れた。

 律儀な小平次は旅先からおちかに仕送りをしていたが、おちかは夫の留守をこれ幸いと、太九郎を家に引き込み、夫婦同様の暮らしぶり、


 暫くして小平次は、興行先から「鳴り物師が足りないので来て欲しい」と、太九郎に手紙を寄越す。太九郎がおちかに相談すると、おちかはこの話にのるように勧め、「向こうで小平次を殺めてしまえばいい」と太九郎を唆した。

 こうして、太九郎は悪心を胸に、奥州・郡山へと旅立った。

 小平次の一座は連日大入り満員札止めの好評であったが、そろそろと季節は秋になり稲の刈り入れの時期、さすがに客足も途絶えて暇になる。

 そんな小平次を、太九郎は「釣りでもどうでぇ」と誘い、二人は安積沼へ出かけて釣り船を出した。

 夕方になり、辺りが薄暗くなってきた頃を見計らい、太九郎は船から小平次を突き落とし沼の底へ沈めた。太九郎は「これでおちかと一緒に…」と喜び、江戸に舞い戻った。

 そして ―――

 夕方帰ってきた太九郎が、おちかの家を訪れると、おちかは昨夜遅くびしょ濡れの小平次が帰って来たと言う。「そんな馬鹿な …」小平次は安積沼で沈めたはず、と慌てた太九郎とおちかが寝床を見ると、今まで寝ていたはずの小平次の姿が無い。その日から夜毎毎夜、怪異・変事がおこり、小平次の亡霊が訪れて二人を苦しめた。

 太九郎はついに物狂いとなって、己の悪行を口走り狂死し、おちかも非業の死を遂げたという。



 江戸時代も幽霊譚は様々ありましたが、男性の幽霊で有名なのが『小幡小平次』。 

 芝居では『四谷怪談』や『番町皿屋敷』と並んで よく演じられた人気の演目だったそうです。当時の江戸っ子は、幽霊の小幡小平次と魚のコハダを掛けて「幽霊が怖くて、コハダが食えるか!」と、啖呵を切ったそうで、その人気の程が伺えます。

 享保三年には、山東京伝が『復讐奇談安積沼(ふくしゅうきだんあさかのぬま』を著し、この読本(よみほん)が好評を博して、さらに小平次ものの芝居や講釈・講談が次々に演じられ、歌舞伎でも「小平次もの」として世界観が確立するほどの人気となりました。

 浮世絵師の葛飾北斎も、蚊帳の上から恨めし気に覗きこむ幽霊『百物語 こはだ小平次』を描いています。


 小平次幽霊譚の講談・講釈は人気が高く、多くの講釈師が演じて、演者によっていろんなバリエーションがあったそうで ―――

≪ 小幡小平次という役者が旅の興行先の印旛沼で、金目当ての友人に殺害され、小平次の妻にその知らせが届くが、妻は小平次は帰ってきているという。幽霊がはまり役だった小平次は幽霊だと気付かれなかった ≫ ≪ 役者の小平次は、旅興行が上手くいかず思い詰めて身投げする。小平次は そのことを妻に知らせないようにと言い残していたが、妻に問い詰められた知人が、その死を告げようとした時、奇怪な出来事が …… ≫ 等々、いろいろなストーリーがあったようです。他にも猫の報恩譚が絡んだり、キリシタンが絡む筋立てもあったとか、



 幽霊・怨霊と言えば「お岩さん」「お菊さん」「累」…と、今まで紹介させていただいた怪談物語もヒロインばかり ( 鬼女とか、鬼婆とか ) で、男性の怨霊となると「将門様」みたいに荒々しい暴れっぷりの幽霊・怨霊が印象的です。

 また、御武家様だと忠義のために死んで、忠義のために化けて出る … みたいな武張ったキャラクターが多いですよね。

 江戸期に小平次幽霊譚が人気を博したのは、どちらかといえば弱々しい庶民 ( 役者という下職 ) の男が怨霊となって意趣返しをする物語。「お岩さん」「お菊さん」も そうなんですが、当時 社会的に弱い立場だったものが「幽霊・怨霊」となって沙汰の外の存在になった途端に無双できる、この辺りに庶民が溜飲を下げられる、ウケる要素があったから、じゃないかと思うんですよ。

 ゾクゾクする怪談物の恐ろしさと、怨霊となった人が復讐を果たし悪人が報いをうけて溜飲が下がる ―――


 怪談に限らず、長く愛される物語には、途中「ドキドキ」で、最後に「すっきり」の筋立てが大切ってことなんでしょうかね。






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