第43話「任侠の逆転 ― 全国制覇」
スタジアムが揺れた。
梨花の両腕から放たれたボールは、まるで弾丸のようにゴール前へ突き刺さる。
「うおおおおおっ!!」
北野の仲間たちが一斉に飛び込む。
混戦、こぼれ球――そこに紗希がいた。
「ここしかないっ!」
泥にまみれたスパイクで振り抜く。
――ドン!
ゴールネットが震えた。
「決まったぁぁぁ! 北野、同点!!!」
実況の声がスタジアムに響き渡る。
紗希は拳を突き上げ、涙を浮かべて空を見上げた。
「お母さん……! 私、やったよ!」
観客席では、酸素ボンベを抱えた母が小さく手を合わせ、震える肩を揺らして泣いていた。
◇
ベンチから竜司の声が飛ぶ。
「心愛! 裏にカチコミだ! 舞!お前の読みは世界一だ、潰せ! 美咲! それ以上シマ荒らされんな! 梨花! 相手のシマ目がけて任侠投げだ! 紗希! 最後にゴール決めてケジメつけてこい!母ちゃん見てんだろ!」
ヤクザ仕込みの檄が、選手たちの血を沸かせた。
心愛はニヤリと笑い、ゴール裏へ駆け出す。
「裏は私の道――!」
舞は冷静に読み切り、凰城の攻撃を潰す。
「そこに出すでしょ……バルセロナ何それ?北野一家の方が凄いのよ!」
美咲は果敢に飛び出し、相手のシュートをキャッチ。
「うちのシマはもう絶対荒らさせない!」
凰城は美しさを失った。
御門エレナのパスは焦りに乱れ、天ヶ瀬瑠衣の突破も、北野の執念のタックルに阻まれる。
「どうして……私たちのサッカーが通じないの!?」
エレナの瞳に焦りが滲んだ。
◇
そして、終盤。
梨花が再びタッチラインに立つ。
「任侠なげぇぇぇ!!」
スタンドが総立ちで叫ぶ。太鼓の音、商店街の声援、農夫のクラクション、ヤクザの無言の圧力――全てが梨花の背を押す。
「うらぁぁぁぁ!!」
ボールはまたも矢のようにゴール前へ。
こぼれ球を舞が拾う。
「絶対に繋ぐ……!」
冷静にクロスを放つ。
そこに走り込んだのは紗希。
「これで――ケジメだぁぁぁ!!」
泥だらけの身体を投げ出し、渾身のダイビングヘッド。
――ドン!
ゴールネットが大きく揺れた。
「ゴオオオオール!! 逆転!! 北野、高校サッカーの頂点に立つ!!!」
◇
笛が鳴る。
スコアは2対1。北野高校、全国制覇。
選手たちは抱き合い、涙を流す。
「やったぁぁ!」「最高だああ!」
心愛は祖父母に向かって笑顔で手を振り、舞は泣きながら父母のもとへ走った。
梨花はヤンキー仲間にガッツポーズを見せ、紗希はスタンドの母に向かって深々と頭を下げた。
観客席全体が大合唱する。
「北野一家! 北野一家!」
セレブな凰城応援団を飲み込み、スタジアムは泥臭い声援に支配された。
◇
敗れた凰城キャプテン、御門エレナは呆然と立ち尽くしていた。
「美しさだけでは……勝てないの……?」
その横を通り過ぎる竜司が煙草をくわえ、ニヤリと笑う。
「筋を通した一家に勝てるもんはねぇんだよ」
涙と泥にまみれた北野の選手たちは、誇り高く拳を突き上げた。
――一家総出の勝利だった。




