最終話「一家の未来 ― 任侠は続く」
優勝の笛が鳴ってから、まだ数分しか経っていないというのに、スタジアムはもう祭りのような騒ぎだった。
北野の選手たちは泥まみれ、涙まみれの顔で肩を組み、そして優勝カップを掲げる。
「うおおおおおっ!!!」
観客席から大地を揺らすような声援が起きた。
セレブな凰城応援団さえも呑み込む「北野一家!」コール。商店街の人々が、農夫たちが、ヤクザ時代の竜司の仲間までもが拳を突き上げ、泣き笑いしながら叫んでいた。
心愛と舞はピッチに駆け寄ってきた両親や祖父母に飛び込み、声を上げて泣いた。
「やったよ……! 私、やったぁぁ!」
父も母も、祖父母も、目尻に涙を浮かべて頷くだけしかできない。
紗希はスタンドからゆっくりと降りてきた母と抱き合った。酸素ボンベを抱えているはずの母が、今日は自分の足で立っている。
「お母さん……!」
「不思議ね。あなたのゴールを見ていたら、体が軽くなった気がするよ」
紗希は堪えきれずに嗚咽を漏らし、母の背に顔を埋めた。
梨花は、太鼓を担いだヤンキー仲間たちに取り囲まれていた。
「姐御、最高だったっす!」
「姐御の任侠投げ、マジでシビれましたぁ!」
仲間たちに肩を叩かれながら、梨花は照れ隠しに鼻をすすり、
「バカヤロ……泣かせんじゃねぇよ」と笑った。
美咲はゴールマウスから駆け寄ってきた両親に抱きしめられていた。
「今までサッカーやらせてくれて、ありがとう!」
「ありがとうはこっちだよ、美咲。守ってくれて」
母の震える声に、美咲もまた大粒の涙を零した。
◇
ベンチの脇では、竜司のもとに農業仲間や元ヤクザの兄貴分たちが次々と押し寄せた。
「竜司! やったなぁ!」
「お前の任侠が通ったんだ!」
竜司は煙草を咥え、ニヤリと笑う。
「筋を通しただけよ。……一家の嬢ちゃんたちが、命張っただけだ」
そう言いつつも、竜司の瞳の奥には熱いものがにじんでいた。
◇
一方、ピッチに崩れ落ちる凰城のキャプテン、御門エレナ。
「どうして……美しさだけでは勝てないの……?」
涙を隠そうともしない彼女の前に、北野の選手たちが手を差し伸べる。
紗希が、真っ直ぐに言った。
「あなたのサッカー、美しかった。でも……私たちは“筋”を通した。それが任侠なんだ」
エレナはその言葉に目を見開き、やがて小さく笑った。
「……美しいわ。あなたたちが」
凰城の仲間たちも涙を浮かべながらうなずき、敗者の誇りを胸に刻んだ。
◇
――そして、時は流れる。
数週間後。
北野の商店街には《祝!全国優勝 北野一家》と書かれた大きな横断幕が張られていた。
子どもたちが「任侠なげー!」と叫びながらボールを放り投げて遊んでいる。
それを見つけた梨花が、頭に手を当てながら駆けてきた。
「おいガキ共! 真似すんな肩壊すぞ!!」と追いかけると
子どもたちはゲラゲラ笑って逃げ、梨花も呆れたように笑った。
舞は広場にホワイトボードを立て、未来の後輩たちに戦術を教えていた。
「ここで奪ったら、すぐに裏! 心愛みたいに走る!」
心愛が実演すると、子どもたちは歓声を上げる。
「速ぇぇ!」
舞は「戦術は仲間を信じることからだよ」と柔らかく笑った。
紗希は母と並んで病院を出てきた。
母はゆっくりだが、杖をつきながら歩いている。
「ねえ、もう少し元気になったら……旅行に行こう」
「ええ、一緒にね」
未来の約束に、紗希は胸を熱くした。
今年引退の美咲は皆にこう宣言していた。
「私、学校の先生になって、竜司親分みたいな人を導ける監督になる!」
仲間たちは「なれる!美咲ならなれるよ!」と応援し、美咲は頬を赤らめた。
◇
夜。
竜司はひとり、畑に立っていた。
空には無数の星が瞬いている。
ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
煙を吐き出しながら、低くつぶやいた。
「筋を通す。人を守る。それが任侠だ。……あいつらはもう、俺の背中を越えてやがる」
紫煙が夜風に流れ、竜司の目尻に光るものが浮かんだ。
◇
数日後、商店街の広場では「北野一家・優勝大宴会」が開かれていた。
焼きそば、たこ焼き、農家が持ち込んだ野菜スープ。梨花の仲間の太鼓が鳴り響く。
中央には優勝トロフィーが置かれ、北野一家全員と家族、仲間たちが集まっていた。
心愛が声を張り上げる。
「一家のみんなぁぁ! これからも走り続けるよ!」
舞が続く。
「任侠サッカーは終わらない!」
紗希が拳を突き上げる。
「もっと点取って、もっと筋を通す!」
美咲が笑う。
「親分みたいに北野一家を守ってみせる!」
梨花がトロフィーを掲げる。
「一家は不滅だぁぁぁぁ!!」
その瞬間、広場が大合唱に包まれた。
「北野一家! 北野一家!」
太鼓が鳴り響き、笑顔と涙が交錯する中、竜司がぼそりと呟いた。
「任侠は続く……次の世代へ、次の未来へ」
――北野一家の物語は、これからも続いていく。
(完)




