第42話「一家総出 ― 応援が力に」
後半のホイッスルが鳴り響いた。
スコアは0対1。北野高校は一点を追う展開でピッチに戻る。
だが、雰囲気は完全に凰城に傾いていた。
スポンサー席には背広を纏った企業人やセレブたち。シャンパン片手に余裕の笑みを浮かべ、優雅な拍手で選手たちを讃える。
その華やかな空気に、北野の選手たちはわずかに押されていた。
「……すごい雰囲気だな」舞が汗をぬぐいながら呟く。
「まるで、私らが余計者みたいだよ」心愛が苦笑する。
凰城はボールを支配し、観客席からは「ブラボー!」「美しい!」と拍手が絶えない。
北野の応援席は……沈黙していた。
◇
その時だった。
「心愛ぃーー!!」「舞ーーー!!」
突然、スタンドの一角から大声が響いた。
家族席に並んでいた両親と祖父母だ。父母は立ち上がって必死に腕を振り、祖父は白髪の頭を上下に揺らしながら声を張る。
そして祖母はハンカチで目頭を押さえながら、震える声で叫んだ。
「最後まで頑張るんだよ! 心愛! 舞! 美咲!」
ゴールを守る美咲は、その声にハッと振り向いた。
「……ありがとう。私、サッカーを続けさせてくれた両親に、全力を見せる」
◇
次に立ち上がったのは、細い体を酸素ボンベに預けた女性だった。
紗希の母――病を押して、病院から駆けつけたのだ。
マスク越しに震える声を振り絞る。
「紗希……! 頑張れぇぇ……!」
紗希の目に涙が浮かんだ。
「お母さん……っ! 絶対に点、取るから!」
◇
そこへドドドン! と太鼓の音が響いた。
スタジアムの空気を一変させる爆音。半被姿の女たちがスタンドに乱入してきた。梨花のヤンキー仲間だ。
「姐御ォォォォォ!!」
「北野ォォォ!!」
肩で風を切るように太鼓を打ち鳴らし、旗を振る。会場はまるで祭り騒ぎ。
梨花は振り返り、叫んだ。
「見てろよコラァ! 姐御の背中!」
◇
さらに商店街の面々が大横断幕を広げた。
《北野一家は商店街も支える!》
屋台を開き、焼きそばやたこ焼きの煙が立ち込める。観客がそれを受け取り、笑顔が広がる。
「北野! 北野!」
続いて竜司の農業仲間が、スタジアムの外にトラクターで駆けつけクラクションを響かせた。
「ブオオオ!」
「北野魂見せんしゃい!!!ちかっぱ頑張れー!!!」
野菜箱を叩いて太鼓代わりにする農夫たち。
最後に現れたのは、黒スーツにサングラスの一団だった。
竜司のヤクザ時代の仲間たち。無言で腕を組み、スタンドから異様な圧を放つ。観客の間に緊張が走る。
◇
その瞬間、空気が変わった。
華やかな拍手はかき消され、北野一家の泥臭い声援がスタジアムを揺らす。
「これは……応援合戦でも北野が押し返しています!」解説が驚きの声を上げる。
舞は胸に手を当て、両親の叫びを思い出した。
「……絶対、勝つ」
心愛は祖父母の涙を見つめて走り出す。
「速さで希望を見せるんだ!」
美咲は拳を握りしめる。
「私の全力を――ありがとうを見せる!」
紗希は涙をぬぐって笑った。
「お母さんに、ゴールを!」
梨花は太鼓の音に背を押され、歯を剥いて笑った。
「燃えてきたぜえええ!!」
◇
竜司が立ち上がる。
咥えかけた煙草を指で弾き飛ばし、吼えた。
「世界? 美? 知ったことかァ! ここは日本だ! 任侠は一家で筋を通す! お前ら、皆でぶっ潰せー!!」
ベンチからも声が飛び、応援席は地鳴りのような「北野コール」に包まれる。
その圧に、凰城の選手たちはわずかに顔を曇らせた。
御門エレナが眉をひそめる。
「この雑多な声援が……私のパスを乱す?」
◇
試合の流れが変わる。
ボールを持った凰城の足元に、泥臭い北野のプレスが襲いかかる。観客の声援が背中を押すたび、足が速くなる。
――会場は完全に北野色に染まっていた。
梨花がボールを持ち、タッチラインに立つ。
スローインの体勢に入ると、観客が総立ちになった。
「任侠なげぇぇぇぇ!!!」
地鳴りのような声援。
梨花は口角を上げ、渾身の力でボールを振りかぶる――。




