第41話「決勝 ― 前半」
ホイッスルが高らかに鳴り響いた。
全国大会決勝、北野高校対凰城学園――頂点を決める一戦が始まった。
キックオフ直後から、会場の空気は一方的に傾く。
「ボール回しが止まらない!」
心愛が食らいつくも、凰城のパスは途切れない。御門エレナを中心に、まるで糸を操るかのようにボールが動き続ける。
実況が声を震わせる。
「凰城学園! 一度ボールを握れば奪えない! これが世界を見据えるチームの完成度!」
◇
舞が読みを利かせ、スライディングで割って入ろうとする。
だが、エレナはまるで見えていたかのように、ワンタッチで逆サイドへ展開。
「くっ……!」
舞の悔しげな声を尻目に、ボールは流れるように渡っていく。
心愛が走る。誰より速く。
しかし――。
「遅いわ」
エレナの冷たい声と同時に、スルーパスが前線を裂いた。
その先にいたのは天ヶ瀬瑠衣。長いストライドで抜け出すと、ディフェンスの間をすり抜け、ゴール前へ。
「いかせるかあぁー!」梨花が叫び体を投げ出す。
だが瑠衣はわずかに浮かせるようにボールを蹴り上げた。
――美しいループシュート。GKの美咲も動けない
ネットが揺れる。
「ゴオオオオール!!! 決勝の舞台、凰城が先制!」
会場が爆発する。セレブな観客席が立ち上がり、拍手と歓声がスタジアムを包み込んだ。
◇
「やはり凰城だ! 格が違う!」
「北野はここまでか……泥臭さなんて通じない!」
観客の一部が口々にそう言う。
北野の応援席は一瞬、沈黙に包まれた。商店街の人々も、太鼓を叩く梨花の仲間たちも声を失う。
ピッチ上の北野イレブンは歯を食いしばっていた。
舞も、心愛も、紗希も、梨花も、美咲も。だが走れば走るほど、凰城のパスは軽やかに逃げ、触れることすら許されない。
◇
ベンチの竜司は、腕を組みながら煙草を指で転がしていた。
「……世界の壁か」
その声は小さく、誰にも届かない。だが、その目は決して諦めてはいなかった。
隣でマネージャーの美香が焦りの声を上げる。
「竜司さん! 何か指示を出さないと!」
竜司はニヤリと笑った。
「任侠の喧嘩はな……まだ始まっちゃいねぇんだよ」
◇
凰城はさらに攻め続ける。エレナが中央で悠然と指揮を執り、美琴が要所で潰し、瑠衣が仕留めにかかる。
北野は泥臭く体を張るも、攻撃の形を作らせてもらえない。
「凰城の王国サッカー! 美しい連携! 無駄がない!」
実況が声を張るたび、北野の選手たちの胸を刺した。
前半終了の笛が鳴る。
スコアは0-1。
凰城ベンチは笑顔と余裕に包まれていた。
「楽勝ね」
「後半は追加点を取って、美しく締めるだけ」
北野の選手たちは肩で息をしながら、泥まみれのユニフォームでうつむいた。
それでも竜司は立ち上がらない。煙草を指で転がしながら、ただ静かに前を見据える。
「世界の壁? 上等だ。任侠は一家で崩すもんだ……後半だ、見せてやらぁ」
――嵐の前の静けさ。
北野の反撃は、まだ始まってもいなかった。




