第39話「墓石崩し ― 1点の誇り」
後半が始まった。
北野は序盤から総力を尽くして攻め立てる。
「任侠なげ、いくぜ!」
梨花が大きく振りかぶり、渾身のロングスローをゴール前へ投げ込む。舞が競り、紗希が飛び込み、心愛が足を伸ばす。だが――。
「絶対に通させない!」
梓と玲の声が重なり、黒曜館は体を投げ出し、次々に弾き返す。ボールはこぼれ、ピッチ上は乱戦状態。
観客が立ち上がる。
「押し込め!」「いや、黒曜館が止めた!」
どちらの声も渦巻く中、ネットは揺れない。
◇
ベンチの竜司が煙草をくわえたまま怒鳴った。
「墓石崩しだァ! 一人が犠牲になってでも道を作れ! 全員で石を粉々に砕くんだよ!」
その言葉に、紗希が吠えるように前に走った。
「私が行く! 通すためなら何度でも!」
彼女は中央へ突進。ディフェンス3人が一斉に寄せる。押し倒されそうになりながらも、身体を盾にしてボールをキープして舞へパス
「紗希ナイス!」
舞はすぐさま左サイドへ展開。
「心愛、抜けろ!」
舞のパスに反応し、心愛がスピードに乗って裏へ抜ける。
「止めろ!」玲が叫ぶ。
しかし心愛の加速は誰も追いつけない。ゴール前へ切り込み、クロスを放つ。
「決めろ!」
だが――黒曜館のディフェンスが最後の力でクリア!
◇
その瞬間、ボールが宙に浮く。
観客が息を飲む。
そこへ――梨花が突っ込んだ。
「一家の柱は……倒れねぇッ!」
黒曜館の二人がユニフォームを掴み、必死に止めようとする。だが梨花は止まらない。
血走った目でボールを見据え、頭から突っ込む。
――渾身のダイビングヘッド。
ネットが、大きく揺れた。
「ゴオオオオオール!!!」
実況の絶叫と同時に、観客席が総立ちとなる。
「鉄壁が破られた! 黒曜館の無失点神話が、いま崩れた!!」
◇
梨花は芝に倒れ込み、肩で息をしていた。
ユニフォームは泥まみれ、腕には相手に掴まれた痕が赤く残る。
「……はぁ、はぁ……任侠は、ぶっ倒れても、筋を通すんだよ」
彼女はかすれ声でそう呟き、拳を突き上げた。
◇
残り時間、黒曜館は必死に攻めようとした。
だが、彼女たちには「守る」以外の形はなかった。
前へ出る度にボールを奪われ、逆に北野の時間稼ぎに呑まれていく。
やがて――試合終了の笛が鳴った。
スコアは1-0。
北野高校、決勝進出。
◇
ピッチを去る黒曜館の選手たち。その背中は泥にまみれ、誰もが立ち尽くしていた。
キャプテン・不破梓が梨花に近づき、静かに言った。
「鉄壁も……お前らの筋には敵わなかった。……あんたらの勝ちだ」
梨花は荒い呼吸のまま笑って返す。
「……柱は、ぶっ壊せるもんじゃねぇ。任侠は、揺るがねぇんだ」
◇
竜司は腕を組み、選手たちを見渡した。
「鉄壁だろうが墓石だろうが、任侠は押し通す。北野一家、決勝進出だ!」
観客席から大歓声が巻き起こる。
「北野高校、決勝進出!!」
仲間たちは泥まみれのまま抱き合い、涙を流した。
――その姿は、まさに任侠。泥臭く、ひたむきで、そして誇り高い戦いだった。




