第38話「鉄壁に挑む ― 無得点の前半」
準決勝、北野高校と黒曜館高校の一戦。
ホイッスルが鳴った瞬間、心愛がサイドへと駆け出した。
「一気にいくよ!」
スピードに乗ったドリブル。しかし黒曜館のディフェンスラインは慌てることなく、まるで一枚の壁のように横へスライドした。
「通させるな!」
玲の鋭い声が響く。心愛が切り返した瞬間、二人、三人と重なって寄せる。ボールは奪われ、スタンドがどよめいた。
「速ぇ心愛を、まとめて潰すだと……?」
観客たちは驚きの声をあげる。
◇
次は紗希。力強いシュートでゴールを狙うが――。
「絶対に抜かせない!」
早乙女美鈴が身体を投げ出し、ボールをブロック。転倒して芝に倒れ込むが、すぐに立ち上がる。
「なんでそこまで……」
舞が呟いた。だが黒曜館の選手たちは痛みを見せない。ただ「守るため」に動き続けている。
◇
舞は後方からチャンスを作ろうとする。
「ロングキック、通れ!」
渾身の一撃をゴール前へ。だが梓が空中で競り勝ち、強烈なヘディングで跳ね返す。
そのセカンドボールを北野が狙うが、玲がすでにそこへ走り込んでいた。
「セカンド取らせない!」
彼女の読みと声で、黒曜館が即座に再整列。
解説の声が重く響く。
「まるで壁に挑んでいるようですね。黒曜館には隙がない」
◇
攻めても攻めても点が入らない。時間だけが過ぎていく。
ベンチで竜司は煙草を指で弄びながら、前線を睨んでいた。
「……拳を壁にぶつけ続けりゃ、いつかひびは入る。筋の通った一家の執念、見せてやれ」
梨花がうなずき、再びロングスローを準備する。心愛も紗希も汗を拭うことなく走り続ける。
だが黒曜館は最後まで崩れない。
◇
前半終了の笛が鳴る。スコアは0-0。
観客席からため息が漏れた。
「北野もさすがに無理か……」
「黒曜館の鉄壁は全国一だ」
しかし竜司はベンチで立ち上がり、怒鳴りつけるように選手たちへ言い放った。
「鉄壁だぁ? 笑わせんな! 任侠は壁に正面から突っ込むバカどもだ! 血ィ流してでも穴を開けろ!」
その声に、疲れきったはずの選手たちの目が再び光を帯びる。
紗希が拳を握り、舞が深呼吸を繰り返し、心愛が歯を食いしばった。梨花は口角を吊り上げる。
「鉄壁だろうが墓石だろうが、ぶっ壊す。それが任侠だ」
――後半、泥臭い北野の総力戦が幕を開けようとしていた。




