第37話「鉄壁の女たち ― 黒曜館高校」
準決勝の舞台。会場は熱狂に包まれていた。
「北野高校、女帝を倒してベスト4! だが次の相手は……黒曜館高校だ!」
実況の声が響くと、観客席の空気が一変する。
黒曜館――全国でも指折りの堅守のチーム。
解説が低くつぶやく。
「ここまで無失点。点を取るのは不可能と言われる鉄壁だ」
ピッチに姿を現した十一人は、派手さもなく、ただ静かに整列した。
5バックと2ボランチ。まるで城壁のようなフォーメーション。
「守り切って、勝つだけ」
キャプテン、不破梓。背筋を伸ばし、鋭い目つきで自陣を見渡す。彼女は一言も無駄を発しない。ただ立っているだけで、北野の前線を威圧する存在感があった。
その隣で声を張るのは、ボランチの宮坂玲。
「全員、気を抜くな! 前に出させるな!」
彼女の声は、まるで鐘のように響き、守備陣をまとめ上げていく。
さらにサイドには早乙女美鈴。小柄だが、その眼差しは獲物を狙う獣のよう。
「体なんか小さくてもいい。倒れてでも止める」
そう呟き、彼女はピッチに手を当てて誓うように頭を下げた。
スタンドからは不満の声も聞こえ始める。
「また守るだけのサッカーかよ」
「つまんねぇんだよ、黒曜館!」
しかし梓はその声に振り返ることなく、ただ真っ直ぐ前を見据えて答えた。
「勝つために守る。それが、私たちのサッカーだ」
◇
一方の北野ベンチ。竜司は煙草をくわえながら、敵の布陣を眺めて鼻で笑った。
「鉄壁だとよ……上等じゃねぇか。任侠は壁ごとぶっ壊すんだよ」
梨花は法被を脱ぎ捨てながらニヤリと笑う。
「任侠投げで揺さぶって、あたしが柱ごと倒してやる」
心愛は拳を握りしめて前を睨む。
「スピードで穴、こじ開けてみせる!」
舞は深呼吸してゴール前を見据える。
「ロングキック、全部武器にする」
紗希は口角を吊り上げた。
「泥臭くてもいい、点をもぎ取れば勝ちよ」
竜司が皆を見渡し、一喝する。
「お前ら、勘違いすんな。任侠は派手に決める必要はねぇ。筋と覚悟で泥にまみれりゃ、それが美学になるんだからな!」
部員たちは「押忍ッ!」と声をそろえ、肩を組んで円陣を組む。
◇
試合前のウォーミングアップも、両校の差は歴然だった。
北野は――梨花のロングスローを舞がヘディングで競り、紗希がセカンドボールを追い、心愛がサイドを駆け抜ける。まるで喧嘩の特訓。
「セカンド逃すな! 血を吐いてでも拾え!」竜司の檄が飛ぶ。
対して黒曜館は――一糸乱れぬラインコントロール。ボールを使うこともなく、立ち位置を数センチ単位で修正し合う。声は最小限。無駄も遊びもない、まるで石像の群れ。
観客席からは再びざわめき。
「北野は攻撃的だな」
「黒曜館は相変わらず守備しかやらないのか」
しかしナレーションが静かに告げる。
「女帝を封じた北野。しかし、次に待ち構えるのは鉄壁――守備の怪物だった」
審判がホイッスルを口に近づける。
任侠と鉄壁。真逆の哲学が、いま正面からぶつかろうとしていた。




