第36話「女帝封殺 ― 筋と絆の逆転劇」
後半の笛が鳴り響いた瞬間、女帝・天城麗奈はすでに動き出していた。
「もう一度力の差を見せてやる!」
その叫びとともに、麗奈は味方からのパスを受け、迷いなく前線へ突進する。
舞と紗希が即座に二重の壁を作った。しかし――。
「遅いッ!」
鋭い切り返しで舞をかわし、すぐさま足元のリズムを変えて紗希を置き去りにする。
たった数秒で二人を突破。会場から悲鳴のようなどよめきが広がる。
「やっぱり別格だ……!」
「止められない……!」
麗奈は勝ち誇った笑みを浮かべ、シュートコースを狙う。
――だが、その前に巨大な影が立ちはだかった。
「……通さねぇよ」
センターバック・梨花。鋭い眼光を放ちながら、女帝の前に仁王立ちする。
「どけッ!」麗奈が体ごと突進する。
しかし梨花はビクともしない。肩をぶつけ合い、火花が散る。
「もう慣れたよ、あんたのスピード。――うちの親分のペットのドーベルマンほどじゃねぇ!」
観客席からざわめきが広がる。
「ドーベルマン!?」
「ドーベルマンとかけっこでもしてるのか?」
その言葉に、麗奈の集中が一瞬乱れた。
梨花は見逃さない。体を入れ替え、力任せにボールを奪う!
「うおおおおッ!!」
奪ったボールを、そのまま全力で前線へロングキック!
ボールは大きな弧を描き、ピッチの空気を切り裂くように飛んでいく。
「心愛、走れぇぇぇっ!」
仲間の声が響く中、心愛が猛然と走り出した。
麗奈の背後から追いすがる鳳凰ディフェンス。しかし心愛は一歩早い。
華麗なトラップでボールを収め、すぐさまゴール前へと持ち込む。
「任侠の速攻だ!」
観客が総立ちになる。
心愛は冷静に中へと目を向け、センターリングを選択。
ゴール前へ放たれたボールに、誰よりも早く飛び込んだのは――紗希だった。
「ここで決める!」
体をひねり、渾身の右足を振り抜く。
ドンッ!
豪快なシュートがゴールネットを突き破らんばかりに突き刺さった。
「ゴオオオオルッ!! 北野、逆転ぅぅぅ!!!」
スタジアムが地鳴りのように揺れる。観客は総立ち、拍手と歓声が一斉に巻き起こった。
「任侠サッカーがまたやった!」
「信じられない、女帝のチームから逆転だ!」
ピッチ上で紗希は両腕を突き上げ、心愛と抱き合う。舞も加わり、北野の輪は歓喜に包まれた。
◇
だが女帝はまだ諦めていなかった。唇を噛みしめ、味方にボールを要求する。
「まだよ……私が蹴り落とす!」
再びボールを受け、突進する麗奈。
しかし、今度は北野全員が牙を剥いていた。
紗希と舞が両側から追いすがり、梨花が正面を塞ぐ。さらに中盤からは心愛が「ウチらのシマ守りまーす!!」と戻ってくる。
麗奈は必死に突破を試みるが、重圧のようにかかる任侠一家の守備に動きを封じられる。
「なぜだ……! 一人で全てを打ち砕けるはずなのに!」
麗奈の足が止まる。奪い取られたボールは再び北野の速攻へとつながり、鳳凰学園の反撃はことごとく潰された。
◇
試合終了の笛が鳴り響いた瞬間、スコアボードには「2-1」の文字が刻まれていた。
北野高校――勝利。
スタンドは割れんばかりの歓声に包まれる。
竜司は煙草をくわえ、薄く笑った。
「女帝やろうが王様やろうが関係ねぇ。筋を通す一家には勝てねぇんだよ」
◇
ピッチに崩れ落ちる麗奈。
その目には涙が浮かんでいた。
「私が……女帝の私が……負けるなんて……」
チームメイトたちは声をかけられず、ただ女帝の背中を見つめるしかなかった。
対照的に、北野の選手たちは竜司を中心に肩を組み、声を上げる。
「押忍ッ! 全国の頂点まで突っ走るぞ!」
「北野一家ぁぁ!」
大歓声とともに、次なる戦いの幕が上がる。
――任侠の絆が女帝を封じ、北野の名をさらに全国へ轟かせた瞬間だった。




