第35話「女帝襲来 ― 前半の攻防」
準々決勝の舞台。全国屈指の強豪、鳳凰学園との一戦を前に、会場は異様な熱気に包まれていた。
観客席のあちこちからはざわめきが上がる。
「いよいよだ……女帝・天城麗奈の試合が始まる!」
「北野? 確かに修学院を倒したらしいけど、相手が悪すぎる」
笛が鳴り、キックオフ。
ボールは早々に鳳凰学園の支配下に渡る。洗練されたパスワークが瞬く間に北野の陣地へと押し寄せてきた。
そして、最後にボールが集まるのはただ一人――麗奈。
「任せました!女帝!」
味方の声とともにボールが麗奈の足元に吸い込まれる。
麗奈は軽く視線を流しただけで、北野ディフェンスの布陣を読み切った。
「遅い」
次の瞬間、鋭い切り返しで舞をかわし、そこから一気に加速。
紗希が慌てて寄せるが、麗奈のフェイントに逆を取られる。
「なっ――!」
気づけばもうゴール前。麗奈は迷いなく左足を振り抜いた。
ドンッ!
強烈なシュートがネットを突き破らんばかりに突き刺さる。
「ゴオオオル! 鳳凰学園、開始早々の先制点だああっ!」
スタンドが揺れた。観客の目には、まるで一人の女王がピッチを支配しているかのように映っていた。
「やはり別格だ……」
「一人で試合を決められる……!」
◇
失点を喫した北野ベンチに、一瞬焦りの空気が流れる。だが竜司だけは笑みを浮かべ、煙草をくわえたまま平然としていた。
「ただのワンマンチームだ。筋は見えてる」
竜司は立ち上がり、声を張り上げる。
「――紗希! 舞! 米袋担いで鍛えたフィジカル、今こそ見せろ! 二人であの女帝を潰せ!」
「「押忍ッ!!」」
竜司の檄に呼応し、二人は目をぎらつかせてフィールドへ散った。
◇
再び麗奈にボールが集まる。彼女は余裕の笑みを浮かべ、北野の守備陣を見下ろした。
「また来るか。小娘ども、何人いようと関係ない」
だが次の瞬間、紗希と舞が両側から鋭く挟み込んできた。
「逃がさない!」
「ここで止める!」
麗奈は驚きも見せず、フェイントで舞をかわす。だがすぐさま紗希の体がぶつかり、進路を塞ぐ。
「小娘二人で女帝を止められると思ってるの!?」
苛立ちの声を上げる麗奈。だが二人は泥臭く、しつこく食らいつく。肩と肩をぶつけ、ボールを奪おうと必死だ。
観客席からどよめきが広がる。
「女帝が止められている……!?」
そして――舞がスライディングでかき出したボールを紗希が拾う!
そのまま前方へロングフィード。
「心愛、行けぇぇ!」
ボールを追いかける心愛が全力で走り出す。鳳凰のディフェンスが戻るが、一歩遅い。
心愛は冷静にキーパーとの1対1を制し、右隅へ鋭いシュートを叩き込んだ。
「ゴオオオオルッ!! 北野、同点だあああっ!!」
ベンチが総立ちになり、竜司は満足げに煙を吐いた。
「ワンマンの孤高さ……任侠の絆で潰すぞ」
ピッチ上では心愛が両腕を広げ、紗希と舞に抱きつく。梨花も拳を突き上げ、スタンドからは大歓声が湧き起こった。
◇
麗奈は唇を噛み、苛立ちを隠そうともせずにボールを要求する。
「まだ終わってない……! 私が蹴り落とす!」
その姿は確かに女帝そのものだった。だが、北野一家の結束が揺らぐことはなかった。
――前半は1-1。
筋と女帝のプライドが正面からぶつかり合い、試合は激しく火花を散らしていく。




