第15話「裏社会の駆け引き」
準決勝の相手、大和工大附属。彼らは「プレスの鬼」と恐れられるチームだ。前線からの圧力は凄まじく、ボールを持った瞬間に三人、四人と群がって潰しに来る。
ウォーミングアップからも異様な迫力が漂い、北野の一年生たちは思わず息をのんだ。
「……やば。あれ、絶対ボール持てないじゃん」心愛が肩をすくめる。
梨花は腕を回しながらニヤリと笑った。「いいじゃねぇか。叩き潰す相手はデカい方が燃える」
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控室。竜司は椅子に深く腰を下ろし、試合映像を流していた。画面の中、大和は前線から一斉にプレスをかけ、相手のサイドバックを追い詰めてボールを刈り取っている。
「見りゃわかる。あいつらの狙いはサイドや」
竜司が低くつぶやくと、舞が身を乗り出した。
「そう。相手はサイドバックを外に張らせて、そこでボールを持った瞬間を狙ってる。でも――逆に考えればチャンスになる」
仲間たちの視線が舞に集まる。
「サイドバックをあえて中に絞らせるんです。偽サイドバック。中盤で数的優位を作って、真ん中から前進する」
紗季が首をかしげる。「でも、サイドの守りが薄くなっちゃうんじゃ……?」
竜司はタバコを指で転がし、にやりと笑った。
「盃交わした兄弟を、裏切りの道に出すわけねぇだろ。サイドは真ん中で守らせろ。真ん中で生きれば、外は勝手に閉まる」
舞は力強くうなずいた。「これで押し返せます!」
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試合開始。案の定、大和は前線から凄まじいプレスをかけてくる。北野のCBにボールが渡ると、三人が一気に寄せ、逃げ場を失わせる。
だが――。
「心愛、中へ!」舞の声が響いた。
普段はタッチライン際に張る心愛が、するりと中央へ絞る。相手の視線が外に流れた瞬間、舞がCBから縦パスを引き出す。
数的優位が生まれ、大和のプレスが遅れる。舞は迷わずワンタッチで前へ。
「紗季、走れ!」
スルーパスが相手DFラインを切り裂き、紗季が一気に抜け出す。冷静にGKとの1対1を制し、右足でゴールネットを揺らした!
歓声が爆発。舞はガッツポーズを突き上げ、仲間に叫ぶ。
「これが裏の駆け引きだよ!」
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失点に苛立つ大和はフィジカル勝負に切り替える。屈強なFWが北野陣内に突進し、梨花の前に立ちはだかった。
「どけ、小娘!」
「小娘だぁ? 舐めんじゃねぇ!」
梨花は真正面から体をぶつけ、仁王立ちで進路を塞ぐ。ドンッと音を立てて二人がぶつかり合うが、梨花は一歩も退かない。
相手FWが体を預けても、梨花は逆に押し返す。
「任侠の看板背負ってんのはウチらや。簡単に通すかよ!」
観客席からどよめきが起こる。奪ったボールを冷静に舞へ渡すと、舞が再び組み立てを開始。北野はピッチの主導権を握り続けた。
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後半。大和は最後まで牙を剥いたが、舞の読みと美咲のブロック、そして梨花の鉄壁のフィジカルがゴールを守り抜く。
試合終了の笛。スコアは1-0、北野の勝利。部員たちは歓声を上げて抱き合った。
竜司はゆっくり立ち上がり、勝利に酔う部員たちを見回す。
「駆け引きってのはな、裏社会もサッカーも一緒や。表の顔に騙される奴が沈む。今日、お前らは裏の道を選んで勝ったんや」
舞は汗を拭いながら笑う。「任侠サッカー、だね」
竜司はタバコに火をつけ、煙を吐き出す。
「そうや。北野一家の抗争は、まだ続く。決勝で本物の血の雨を降らすんや」
決勝進出――北野一家の任侠サッカーは、いよいよ最終抗争へと突き進んでいく。




